« カモメのみなさん | トップページ | タブノキを切る »

2008年3月 7日 (金)

スティーヴン・ハンターとジョージ・オーウェル

 なむや文庫の二月の本棚には、アメリカの冒険・推理小説作家スティーヴン・ハンターを取り上げました。http://homepage2.nifty.com/namuyabunko/monthlypage.html

 ベトナム戦争における超人的狙撃兵ボブ・リー・スワガー、その父で太平洋戦争・硫黄島の英雄アール・スワガーをそれぞれ主人公とする小説シリーズは、日本では「スワガー・サーガ・シリーズ」と呼ばれ、大きな評価を得ています。 
 わたしは、このタフでストイックな親子二代の主人公の風貌として、映画俳優チャック・コナーズを思い浮かべながら、十分楽しませてもらいました。
 チャック・コナーズは子どもの頃大好きだったテレビ映画「ライフルマン」の主役です。ライフルマンはその名のとおり射撃の名手。長身でライフルをピストルのように指に引っかけて回してみせました。小坂一也が歌っていた主題歌では「いかつい顔にやさしい目」と歌われていた容貌で、後に西部劇映画の悪役として活躍しました。
 本の帯のうたい文句に「男たちの死闘を描いて天下無双!」とあるように、アクションが中心の小説ですが、『狩りのとき』は、ベトナム戦争の時代のアメリカの気分というものを少しわかるような気にさせてくれた作品でもありました。高く評価しています。

 スワガー・シリーズとは別の作品のひとつに『さらば、カタロニア戦線』があります。イギリスのそれほど豊かとは言えない階層から成績優秀の故に伝統パブリックスクール「イートン校」に学び、しかし大学には進まず植民地インドの警察官となり、ビルマに勤務、その後スペインの共和国軍に義勇兵として参加という、主人公ロバート・フローリーの経歴は、あきらかにイギリスの作家ジョージ・オーウェルの経歴そのものです。邦題の『さらば、カタロニア戦線』も、原題は"Tapestry of Spies"だから、オーウェルの『カタロニア讃歌』を意識したものでしょう。

 しかし、この本の北上次郎の解説にはオーウェルのことは触れられていませんでした。むろんこの小説はスパイ活劇で、内容とオーウェルとはまったく関係ありませんから無視したからどうだということではありませんが、オーウェルのファンとしては、ひとこと触れてほしかったところです。
 第一部の船が沈没するシーンで、主人公が突然銃に撃たれた象の姿を回想するところは、著者自身があきらかにオーウェルの「象を射つ」を意識して書いていると思われます。プロローグにはビルマでの絞首刑のシーンが出てきますが、オーウェルには「絞首刑」という作品もあります。(注1)
 わたしくらいの歳だと、カタロニアというだけでオーウェルを思い起こす人間がかなりいると思います。学生の頃、『カタロニア讃歌』をスターリン主義批判の資料として読んでいる友人もいました。
 こんな話は、若いミステリファンには何のことだかわからないでしょうし、『動物農場』も『一九八四年』も、もうあまり読まれてはいないのでしょうけれど。

(注1)角川文庫の『動物農場』に「象を射つ」も「絞首刑」も収録されています。

|

« カモメのみなさん | トップページ | タブノキを切る »

なむや文庫雑録」カテゴリの記事

コメント

コメントを書く



(ウェブ上には掲載しません)


コメントは記事投稿者が公開するまで表示されません。



トラックバック


この記事へのトラックバック一覧です: スティーヴン・ハンターとジョージ・オーウェル:

« カモメのみなさん | トップページ | タブノキを切る »