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2008年6月27日 (金)

殺人詩篇(ウィル・ハリス、ハヤカワ・ミステリ文庫、1985)

 なむや文庫の「2007年12月の本棚」では「古本の出てくる推理小説」を取り上げましたが、その場の思いつきでやったため貧弱なものでした。このカテゴリーには店主としてけっこうひかれるものがありますので、あらためて少しずつ紹介してみることにしました。

殺人詩篇(ウィル・ハリス、ハヤカワ・ミステリ文庫、1985)

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<あらすじ>
 カリフォルニア州知事候補者から寄贈された時価30万ドルの稀覯本『ベイ版詩篇』を手に持ったままロサンゼルス大学図書館の主任が殺された。親友だった英文科教授クリフ・ダンバーは、被害者の娘の依頼で調査に乗り出す。図書館職員のアキラ・ヨネナカやすぐれた校正技術をもつ女子学生モナ・ムーアらの協力をえて『ベイ版詩編』の真贋を調べはじめると、暴漢に襲われる。
 ここまで書くともうあらかたの筋はわかってしまう。州知事候補者周辺が怪しい。ラスベガスを根城とするマフィアもからんで、ベトナム帰りの英文科教授の大活躍、ということになる。

 『ベイ版詩篇』(注1)というのは、聖書の「詩篇」の英訳書で、イギリス植民地時代の1640年に刊行されたアメリカ最古の印刷物。歴史的価値が高いうえに現存するのは11部のみとあって、貴重な書物であることは間違いないが、誤訳、誤植が多くて内容的にはたいしたことはないものらしい。誤植はこの小説の中でも真贋の鑑定に重要な役割を果たす。

 本文はきれいなのに装丁がやり直されているのはなぜか、用紙は?など、古本好きにはけっこう楽しめる。少なくともわたしは十分楽しんだ。

<以下ネタバレ注意>

 そのうえで、気になったことを言うと、マフィアの手先がやってきて玄関に自動ライフルとピストルを連射するという事態に遭遇しても、なお警察には届けず、単独でマフィアのボスのところへ乗り込んでいくというのは、いくらなんでもこの教授、スーパーマンすぎる。
 真贋の決め手になった誤植についても、寄贈を受けたとき鑑定した学者たちが、全文を真物と比較しないまま本物と鑑定していたというのは、少し無理じゃないだろうか。アメリカの書誌学者はこんなものでつとまるのか。
 結局事件は解決するのだが、逮捕されるのは下っ端ばかりで終わってしまう。取引に応じたマフィアのボスは多少の損はしたものの無傷で、州知事候補者は立候補を取りやめはするものの捲土重来を期す、というところで終わる。
 黒幕の親分まで捕まって万事めでたしめでたしというより、これがアメリカの現実感覚で、このほうがリアリティがあるということなのだろうか。
 
 外国の小説を読むときには、いつも、その「リアル度」というか「荒唐無稽度」はどのくらいなのか、気になる。
 日本の推理小説や時代小説であれば、なんとなくここからから先は荒唐無稽、ということがわかる、あるいはわかるような気がするのだが、外国のものはよくわからない。荒唐無稽を楽しむべきところを、「へえ、アメリカではこんなことがあるんだ!」と感心していることが、けっこうあるのではないか。

(注1)『ベイ版詩篇』(「ウィキペディア」より)

Bay Psalm Book
From Wikipedia, the free encyclopedia

The Bay Psalm Book was the first book printed in British North America.

The book is a Psalter, first printed in 1640 in Cambridge, Massachusetts. The Psalms in it are metrical translations into English. The translations are not particularly polished or poetic, and none have remained in use, although some of the tunes to which they were sung have survived (for instance, "Old 100th.") However its production, a mere 20 years after the Pilgrim Fathers arrived at Plymouth, Massachusetts, represents a considerable achievement. It went through several editions and remained in use for well over a century.
Http://en.wikipedia.org/wiki/Bay_Psalm_Book 

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