『勝利投手』
北京五輪での成績が芳しくなかったため、野球の星野監督がテレビや週刊誌でバッシングを受けています。
わたしは昔からの中日ファンなので、阪神に寝返った星野(以下敬称略)には愛憎半ばするところがあり、あんな負け方では叩かれても仕方がないと思う反面、ここまでやらなくてもという気もしています。
ということで今回は、星野が実名で出てくる野球小説『勝利投手』(梅田香子(ようこ)1989、河出文庫)を紹介します。
夏の甲子園に突然あらわれて優勝をさらった謎の投手は、実は野球部のマネージャーの少女だった。
以前から中日ドラゴンズの星野の大ファンだった彼女は、その星野の援護で、大騒ぎのドラフトの後、中日に入団。そして同僚の捕手との恋や怪我などの曲折を経て、闘将星野監督のもと遂に中日を日本一に導く。
と、あらすじを書くだけで恥ずかしくなるくらいの「熱血ロマン中日ドラゴンズ小説」です。星野ファンだった作者が、短大時代にミニコミ誌「星野新聞」を作って、そこに連載していたのがこの小説だそうで、なるほどそれならと納得できます。
http://www.odekake.us/index/brilliant_people7.htm
実はこの本のことは去年まで知りませんでした。読んでみると、投手は鈴木孝政、小松、牛島、郭に半ば忘れかけていた都裕次郎、打者は平野、谷沢、大島、宇野…。二十年前の選手たちです。なつかしく、うれしく読みました。
小説としてはそれなりのレベルに達しています。1986年に河出書房の文藝賞の佳作に選ばれて単行本として十二万部売れ、アニメーションにもなっています。横浜のわたしが全然知らなかったというのは、もっぱら売れたのは名古屋中心だったということでしょうか。
しかし文藝賞で思い出すのは、あの高橋和巳です-巨人の左のエースだった高橋一三ではありません。第一回文藝賞を受賞したのが出世作『悲の器』でした。重厚で苦悩に満ちた高橋の作品を、わたしも学生時代、眉間に皺を寄せながら読んだものでした。
このひたすら明るくてアッケラカンとした熱血野球小説が、佳作とはいえ文藝賞とは…わたしの知らないうちに、二十年前、すでに世の中は変わっていたようです。
当時の選考委員だった江藤淳がこの作品をほめたそうですが、江藤淳は中日ファンだったという話ですから、多少割り引いて聞かないといけないかもしれません。
ともかく、わたしは楽しく読みましたが、中日ファン以外の人も楽しく読めるかどうか、保証はできません。
星野は、こんな小説が作られるくらい、昔から人気がありました。
1982年10月、中日がリーグ優勝を決めた横浜スタジアムでの大洋戦、わたしは三塁側内野席で応援していました。小松が投げていて、ほぼ中日の勝ちが決まった終盤、引退が予測されていた星野を出して優勝投手にしてやれと、三塁側から「星野コール」の大合唱が起こったのを今でも覚えています。結局星野は出てこず、最後まで小松が投げたと思いますが。
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