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2008年9月 9日 (火)

『神様、仏様、稲尾様』

 星野の話をもう少し。
 わたしの記憶にある星野は、今ひとつ頼りきれない投手、というものです。巨人戦、ウォーッと吼えながら途中までは好投するけれど、終盤力つきて結局打たれてしまう。格好はいかにも闘志にあふれていて人気はあったけれど、投手としての実力は一流とはいきませんでした。あのころの他球団のエースといえば、堀内、江夏、平松という超一流どころでしたから、星野に同程度の活躍を期待するほうが無理だったのでしょうが。

 あのころ中日のピッチングコーチをした、かつての西鉄ライオンズの大投手、「鉄腕」稲尾和久が、自伝『神様、仏様、稲尾様』の中に、星野のことを書いています。

Photo

 昭和53(1978)年、稲尾は、中日のピッチングコーチになりました。

 特に面白かったのは星野だ。気持で投げる投手がいるというのを、彼と接して初めて知った。ウオーミングアップを見ていると、とても怖くて投げさせられないという気持ちになる。球がおじぎしている。ところが試合になると別人だ。特に巨人戦はすごい。自分で自分の頬にビシっとびんたを食らわせ、「イテッ」といってマウンドに向かう。そしてブルペンでは考えられなかったような球をびしびし投げる。ほかのカードでもこの気合が出せれば本当にすごい投手なのにと、もったいなく思えるほどだった。
 こんなことがあった。星野先発の試合、3点リードで七回まできた。球威が落ち始めていた。ピンチを招いてわたしがマウンドに向かうと、右のこぶしでグラブをバンバンたたき、いかにも元気いっぱいの様子。ところが「どうだ」と話すと「見てわかるでしょう。駄目ですよ。リリーフを用意してください」。
  一体この態度と会話のズレは何なのか。引っ掛かりを覚えながらも、行けるところまでということにしてベンチに帰った。
  八回またピンチになる。さすがにもう限界だ。再びマウンドに行くと、そこでも彼はピンピンしている様子で、疲れなどおくびにも出さない。しかし話はもう次の投手のことだ。「だから駄目だって言ったでしょう。ところで次は誰ですか」などと平気で交代を前提とした話をしてくる。「孝政(鈴木)だよ」というと「あいつ調子悪いですよ、大丈夫ですか」などと実に冷静だ。
  とにかくマウンドを降りるのは本人も納得だと思い、監督に交代の合図を送った。(中略) 
  交代となって、鈴木が出てくる。マウンドを降りていく星野。ここで彼の態度が一変するのである。憤然とベンチに向かったかと思うとグラブを地面にたたきつけた。納得の交代ではなかったのか。おまけに鈴木が打たれて追いつかれたのがまずかった。無念を示した星野のパフォーマンスに興奮していたファンから、「なぜ星野を代えた」と野次の集中砲火を浴びて、こちらもほとんど火だるま状態になってしまった。
  翌日星野を問い詰めた。「おい、昨日の態度は何だ。あれじゃまるで無理やり代えたみたいじゃないか」。その答えがふるっていた。
「稲尾さんはまだ名古屋にきたばかりで知らんでしょうが、私は燃える男といわれとるんです。どんな状況でも弱気なところは見せられんのです」
(稲尾和久『神様、仏様、稲尾様』2004、日経ビジネス人文庫、P232~234)

 星野は、燃える男を自分で演出しながら、一方で自分の力はちゃんとわかっていたんですね。(まるで自分を客観的に見られる福田首相のようだ?)監督として実績を残したのもうなずけます。

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