« 17 マーク・トウェイン | トップページ | 週刊ポストの創刊号 »

2009年2月28日 (土)

『ゴッドウルフの行方』

 「古本の出てくる推理小説」のカテゴリーもご無沙汰しています。いろいろあると思ってカテゴリーを作ったはいいが、以前読んだ本について何か書こうとすると、内容をほとんど覚えていないことを思い知らされ、そうかといって読み返すのも大変だったりして、そのままになっています。これもぼちぼちやります。

 今回は、ロバート・B・パーカー『ゴッドウルフの行方』(ハヤカワ・ミステリ文庫、1986、菊池光訳)。人気の私立探偵スペンサー・シリーズのひとつです。

Photo

 カバーの裏表紙には、こうあります。

 大学の図書館で厳重に保管されていた中世の稀覯書<ゴッドウルフ彩飾写本>が盗まれた。総長の依頼を受けたスペンサーは、犯人と目される学内過激派組織の秘書をつとめる女子学生テリイと接触する。その深夜、彼女からの電話で駆けつけたスペンサーが見たものは、死体の傍らに立ちつくすテリイの姿だった!
 スペンサーは彼女を殺人容疑から救おうと奔走するが、事件の裏には意外な陰謀が……話題のヒーローのデビュー作

 盗んだ犯人からは十万ドルが要求され、なるほどこれは中世の稀覯書の争奪戦か、と興味をそそられます。ところがこの写本は途中であっさり犯人から大学へ返されて、それでご用済みになってしまいます。中世の彩飾写本に秘められた謎、みたいな話を期待していたのに残念。話の展開上、私立探偵スペンサーが大学に入っていくきっかけになっただけでした。

 このシリーズは他に一冊(『ペイパー・ドール』)読んだことがあるだけですが、この作品のスペンサーは、いかにも通俗ハードボイルドらしい探偵です。暴力に強く、女に強く、やたら気のきいたセリフを言いたがる。シリーズの第一作なので、とりあえずわかりやすいところで書いておこうということだったのでしょうか。

 筋立てにあっと驚くようなところはありませんが、おもしろかったのは、原作が1973年刊行なので、1960年代後半のアメリカの大学が背景になっているところでした。
 ボストンの、一流ではない大学という設定です。

大通り沿いに、大きな大学のまわりに集まる風化作用の屑のような店が並んでいる──古本屋、今年流行の風変わりな衣料品安売り店、ポルノ・ショップ、店頭の占星術教室、学期末リポート請負屋、サブマリン・サンドウィッチ店が三軒、ハンバーガー、ピザ、フライド・チキン、ソフト・クリームの店など。ポルノ・ショップは古本屋よりも大きい。(P22)

 その町に、過激派の学生がいて、そのシンパの教授もいる。ヒッピーがいて、マリファナはあたりまえ、わけのわからない新興宗教かぶれまでいる。
 実際にアメリカへ行ったことはありませんが、若いころ、アメリカの大学はこうなっていると、「平凡パンチ」や「プレイボーイ」で読んでいた風俗がそのまま出てきます。なつかしく読みました。
 最近、日本では学生が大麻で捕まったというニュースをやたら聞きますが、あのころ、日本でもこれらの週刊誌などでは、タバコの方が身体に悪いという論調が優勢だったと思います。マリファナを解禁しろくらいの記事があったんじゃないかな。

 菊池光の訳は、ちょっとカタカナが多いように感じます。ファッションや食べ物関係のことばなど、日本でなじみがないと、どう訳したらいいのかという問題はありますが、面倒なところはみんなカタカナにするだけですませているような気もします。上に引用したサブマリン・サンドウィッチなんかは、それでもなんとなく潜水艦型のサンドイッチなんだろうなとわかりますが。
 一カ所、スペンサーが家捜しをしているところに、こんなのがありました。

便器の上に立ってジャックナイフの刃で天井の照明器具のスクリューを外した──市の電気器具基準に合格しそうもないようなほこりだらけの電源しかない、スクリューで器具を元通りに取り付けた。(P176)

 照明器具のスクリューはないでしょう。これはやっぱりネジと訳してもらいたい。

|

« 17 マーク・トウェイン | トップページ | 週刊ポストの創刊号 »

古本の出てくる推理小説」カテゴリの記事

コメント

コメントを書く



(ウェブ上には掲載しません)


コメントは記事投稿者が公開するまで表示されません。



トラックバック


この記事へのトラックバック一覧です: 『ゴッドウルフの行方』:

« 17 マーク・トウェイン | トップページ | 週刊ポストの創刊号 »