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2009年6月13日 (土)

『奇跡のリンゴ』

 『奇跡のリンゴ』を読みました。
 2006年12月に、NHKの「プロフェッショナル仕事の流儀」というテレビ番組で放映されて評判となった内容を基に、本にしたものだということです。

 内容をわかりやすく言うと、こうなります。

 絶対に不可能といわれてきたリンゴの無農薬栽培に挑み、長年の極貧生活と孤立を乗り越えて、遂に奇跡のリンゴを生み出した男の感動の物語!

Photo
(石川琢司著、NHK「プロフェッショナル仕事の流儀」制作班監修『奇跡のリンゴ 「絶対不可能」を覆した農家 木村秋則の記録』、幻冬舎、2008)

 ※テレビは見ていませんが、NHKの番組紹介が下記URLにありました。
http://www.nhk.or.jp/professional/backnumber/061207/index.html

 ※YouTubeには、最初の3分ほどの映像がありました。
http://www.youtube.com/watch?v=DUcuaskVqw8

 読んでみると、なるほど感動的です。ライターが、盛り上げよう、感動させようと書いているのがよくわかって、ちょっと鼻につきますが、まあNHKのドキュメントの背景には重厚なクラシック音楽がつきものだからと思うことにしましょう。

 主人公の木村さんは、1978年頃から無農薬でのリンゴ栽培をめざし、殺虫剤のかわりに毎日リンゴの木から手で虫をとり、自然の堆肥を作って与え、雑草を刈り、害虫と病気を忌避できるものを探して、さまざまな食品-黒砂糖、胡椒、ニンニク、トウガラシ、味噌、酢…を散布して試し続けた。
 しかしリンゴは何年間も花を咲かせず、やがて貯えもなくなり、トラクター、自家用車からはじめて田んぼまで売り、一家七人の生活は窮乏した。1980年代のはじめ、日本中が豊かさを実感しはじめた頃、小さな娘三人には消しゴム一つを三つに切って渡した。まわりからは「カマドケシ」と呼ばれた。「竈消し」で、竈の火を消す=家を潰すという、津軽弁の最悪の渾名だという。
 すべてのリンゴ畑を無農薬にしてから六年目、1985年の夏、800本のリンゴの木は花も咲かず、半分近くが枯れ、死にかけていた。
 失敗の責任をとるために、死を決意して、木村さんはロープを手に、夜、岩木山に入った。そして、いざというとき、山のドングリの木が、月の光の下、美しいリンゴの木のように輝いているのを見た。農薬も何もなしに、雑草に囲まれ、たくさんの虫やカビや菌たちの中にいながら、きれいな葉を輝かせているのを見た。
 木村さんは、このとき、求めていたものが、この土の中にあるのではないかと気づいた。

「これだ、これだ、これが答えだとな。あの山中で、踊り出したい気分であったな。ほんとにバカだからさ、自分が何のために山を登って来たかも忘れて、ロープのことなんてすっかり忘れてよ、今度は駆け足で山を下りたわけだ。一刻も早く自分の畑の土の状態を見て、何をするか考えたかったからよ。下り坂だからな、一時間ちょっとで麓の畑まで下りたんでねえべか。それでも、夜中近くになっていたな。あんまり私の帰りが遅いもんで、美千子が子供を連れて畑まで様子を見に来ていたよ。心配していたんだろうけど、私があんまり意気揚々としているもんだから、狐につままれたような顔をしていたな」(p128)

 そして、リンゴ畑に大豆を蒔き、雑草を生やすなどして、土を山の土に近づけていくうちに、リンゴの木は少しずつ元気になり、すべての畑を無農薬にしてから八年目に、生き残っていた四〇〇本余りの木のうち一本の木に七つの花が咲き、二つのリンゴが実った。
 九年目には畑一面に花が咲いた。

 というわけで、めでたしめでたし、となります。

 このリンゴ、それほど大きくもなければ、見てくれがいいわけでもないが、ともかくおいしいのだそうです。ぜひ一度食べてみたいものです。子供の頃から、果物の中ではリンゴが一番好きでした。

 この本を読んで驚いたことが二つあります。
 一つは、木村さんがわたしより若いということ。1949(昭和24)年の生まれだそうです。
 表紙の写真をもう一度見てください。おとうさんよくがんばったね、と声をかけたくなるようないい写真ですが、この人がわたしより二つ若い。うーん、いろいろ考えてしまいました。

 もう一つは、木村さんが無農薬でリンゴを作ることを志したきっかけになったのが、偶然買ったという福岡正信さんの本だったことです。

表紙に稲の写真があって、本のいちばん最初のところに、『何もやらない、農薬も肥料も何も使わない農業』と書いてあった。ああ、こういう農業もあるのかなと。自分でやるやらないは別としてな、同じ百姓として、興味が湧いてきたのさ。それから何回、その本を読んだかわからない。本が磨り切れるほど読んだ。福岡正信さんの書いた『自然農法』という本でありました。(『奇跡のリンゴ』p50)

 おそらくこの本でしょう。この本ならわたしも同じ頃に読んでいるのです。

Photo
(福岡正信『自然農法・わら一本の革命』、柏樹社、1975)

 違う本だったとしても、書かれていたことは同じでしょう。
 わたしの本は1978年4月発行の4版ですから、木村さんよりはちょっと後に読んだようですが、そんなに何年も違うことはなさそうです。わたしは、結婚したばかりの頃でした。
 農業をやりたかったとか、家庭菜園をやっていたというわけではありません。本屋で見つけて、おもしろそうだから買いました。
 読んでわたしも心ひかれました。なにしろ自然農法の四大原則は、「不耕起、無肥料、無農薬、無除草」だというんですから。
 しかし農業に手を出すどころか、その後、うちの奥さんのはじめた菜園もろくに手伝わず、多少の知識を仕入れただけで事足れりとしてしまったのでした。同じ頃に同じ本を読んで感心しても、このあたりが、木村さんのような、性格の過剰な人との大きな違いだと、あらためて感じ入りました。
 ただ現在、南房総で、うちの奥さんの畑の手伝いをしているのには、多少、この本の影響があるのかもしれません。 

 福岡正信さんは、この後も自然農法を一途に追求し、「無為自然」という老荘思想のような道にたどりついたようで、本当に仙人のようになりました。下のDVDブックは2004年、91歳のときの映像が収録されています。このときはまだ元気でしたが、2008年8月に亡くなられたそうです。合掌。

Dvd
(福岡正信『自然農法・福岡正信の世界』、春秋社、2005)

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