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2009年8月10日 (月)

『古書殺人事件』

マルコ・ペイジ『古書殺人事件』(中桐雅夫訳、ハヤカワ・ミステリ、1985改訂1版)

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 ちょっと長いけれど、裏表紙の売り文句はこうなっています。

ダンテの大理石像で殴り殺されたニューヨークの古書商エイヴ・セリグの死体が発見されても、心から同情を寄せている人間はそう多くなかった。とかく商売にいかがわしい噂のあったセリグ、それだけに手を下しても不思議はない容疑者の数も少なくない──顧客を横取りされた古書商仲間のドック・ドーラン、盗品に巧妙な細工を加えてセリグに流していた弁護士バナーマンとその手先フィーラー……だが、なかでも警察が目をつけたのは。セリグの店の元事務員ネッド・モーガンだった。
モーガンは二年前、店から稀覯本を盗んだ罪で刑務所に送られ、ごく最近町に戻ってきていた。セリグへの憎悪をむきだしにしたモーガンに向けられる世間の目は冷たかった。だがジョエル・グラスは二年前の事件に疑いを抱いていた。セリグの娘レアと恋に落ちたモーガンが金欲しさに店の品に手を出したのは明らかだ。しかし、一冊数万ドルもする『ドン・キホーテ』の初版本を盗むはずはない。長年、盗まれた稀覯本を見つけだして保険会社から手数料を稼いできたグラスの目はごまかせない。
真相は、セリグがモーガンに罪を押しつけ、保険金を詐取したに違いないのだ。ということは、失くなった稀覯本はどこかに眠っているはずだ。グラスは本の行方を追いつつ、殺人事件の渦中へと踏み込んでいった……。
「第一ページから最後の驚くべき結末に至るまで、その変った背景は探偵小説界の一事件である」と評された名作ミステリ。しゃれた会話とスピーディな展開は、アメリカ探偵小説黄金期の香りを十二分に堪能させよう。

  競売で主人公のジョエル・グラスがエミール・ゾラの手紙を70ドルで競り落とすところからはじまります。それについてジョエルの妻ガーダはこう言います。
「いいお仕事だわ、こんなくだらない手紙にお客がつくとでも思ってらっしゃるの?それとも名前がZではじまる作家のものを集めだしたの?」
 これでいきなりめんくらいました。ゾラの手紙がくだらない?Zではじまる?なんのことだ?この後、ジョエルが
「この手紙は本当はシェークスピアが書いたもので、彼はわざと、それがゾラの手になるもののように見せかけようとしたんだと、そう言ってもか」
と言うところで、ようやく冗談を言っているのだとわかりました。裏表紙の売り文句に「しゃれた会話」とありましたが、この手の会話のことのようです。
 こんなところもあります。酔っぱらったジョエルを家に連れて帰ってきて、

ガーダはドアをあけた。「どうぞ、旦那さま。もうぶっ倒れてもいいわよ。わたしの責任は終りましたからね」
「頼みにならん女房だ」と言ってジョエルは椅子にすわり、右足の靴をぬいで、ピアノの下に投げ込んだ。「朝になったら靴が五オクターヴの辺にあることを教えてくれよ」

 ハードボイルド探偵小説では気のきいた会話が命、というわけで(まあこの作品はハードボイルドとは言いかねますが)、こんな調子の会話が続きます。でも、ときどき意味がわからない、こちらに響かないところがある。生活習慣や考え方の違いのせいでしょうが、言葉遣いが古くてピンとこないところもあります。原作が1938年ですから、戦後すぐくらいの訳でしょうか。
 夫にむかって「思ってらっしゃるの」と言う妻たちは、いつ頃まで日本に棲息していたのでしょうか。小津安二郎の映画に出てくる女性たちはこんな言葉遣いをしていましたが、わたしのまわりにはまず見あたりません。

 習慣の違いということでは、保険会社の調査員を警察官が仲間のように扱ったりするのもよくわかりません。これは癒着ではないか。アメリカ探偵小説の定番で、地方検事がいばっているけれど、やっぱりなじめない。
 古書の話がいろいろ出てくるのはいいのですが、出てくる古書商たちが悪い奴ばかりなのもちょっとひっかかりました。まさかアメリカの古本屋がこんな悪い奴ばかりだということはないでしょう。それとも作者がなにか古本屋に含むところがあるのか。
 タイトルの『古書殺人事件』は、原題では”Fast Company”で、訳者によれば「ぺてん師組合とかインチキ仲間」という意味だそうです。悪い奴たちの話を書こうとしたから、こうなったと考えることにしましょう。

 というわけで、ストーリーを頭に入れるのにちょっと苦労してしまった作品でした。
 

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