« 外科治療には『三国志』 | トップページ | 『ジェネラル・ルージュの凱旋』 »

2009年9月20日 (日)

「何野誰兵衛 建之」の読み方

 このブログの右下の方に「検索フレーズランキング」という欄があることは前にも書きました(ソーホース(ウマ)の作り方)。DIY関係の検索でこのブログがひっかかることがけっこう多いようですが、9月13日に突然、8位に「"建之" 墓 読み方」というのがランクされていて驚きました。
 よくお墓や石碑などにある「何野誰兵衛 建之」の読み方を検索しているのですが、わたしは墓の読み方のことなど書いた覚えがないので、どこがひっかかったんだろう、と思い返してみると、「右は高輪泉岳寺」に「四十七士の墓」とか「川上音二郎建之」と書いてあるので、これがひっかかったようです。

3_2 

 偶然、ついこないだ、これとまったく同じ質問をされて、
「之(これ)を建(た)てる」
と答えていたこともあって、この「"建之" 墓 読み方」の検索をクリックしてみました。
 
 そうするとやっぱりこういう答えがでています。

 「漢文で書かれた碑文は,「読み下し」で読むので,「これをたつ」と読む」──これが本則でしょう。
 「これをたつ」「けんし」「こんし」「これをたてる」──もし私が、その先生なら、学生がこの4通りのどの読み方をしても「良し」とします。

http://okwave.jp/qa4731066.html

 「この墓あるいは記念碑を建てた」という意味で、それを読み下しで読むか、そのまま音読みで読むかというだけのことで、特に問題はないと思いますが、中に、あっと驚く説がありました。

 じつは、この「建之」という言葉は日本では存在しない言葉です。
 もちろん、日本には無い言葉ですので、決まった読み方も存在しない訳ですが、私が関係していた時には「けんし」と呼んでいました。
 しかし、一般的に馴染みが無いというのと、決まっている事柄ではないという事で建墓者の方には「こんりゅう」と説明し、お墓の慣例で「建之」という文字を使っています、という風に説明していました。
 意味合い的には「建立」と同じなのですが、使われる場面はお墓や記念碑等に限られています。
 日本のお墓文化は、中国の影響を受けているので、そこから建之という言葉の意味を考えるとすると「之(これ)を建てた」という風になるのかもしれません。

 文章を読むと、お墓を作るとか売るとかに関係していた方のようですが、どうもこの業界には「建之者」という言葉があるようで、ある石材会社のページには、こんな文章もありました。

お墓の建之者彫刻
 お墓には、建之者の彫刻を入れることが多く、裏面または、側面に「平成○○年○○月 ○○建之」のように彫ります。建之は「之を建つ」という意味です。

 さらにこんな回答もあったようです。(書かれたもとのページの記載がないので確認はできませんでした。)

 お墓を建てた人、建之者(けんのうしゃ)の意味です。
 誰の誰兵衛建之(けんのう)と読みます。

 業界で、いちいち「『之を建つ』の上の名前はこれこれで」とか言うより、「『建之者(けんししゃ)』はこれこれで」と言った方が、なにかと便利そうなのは、なんとなくわかります。
 だから業界の専門用語として使うのはかまわないと思いますが、それが一人歩きして、日本語にはない「建之」という特別の熟語があるんだというのは、話が逆でしょう。中国語にも「建之」なんて熟語はないのではないでしょうか。
 「けんのう」と読むという話にいたっては驚くしかありません。

 以前読んだ『それ迷信やで』(今井幹雄、東方出版、1981)という本は、真言宗の僧侶が、檀家の年寄り連中が言ってくる「仏壇の花たてと蝋燭たてを一対にしておかないと後家になる」とか、「葬列を歩く人が後ろを向くと、後を引く(=また葬式が出る)」とかいう迷信への対応のあれこれを書いたおもしろい本でした。「迷信列島漫才説法」という副題がついています。

Photo

 こんな一節があります。

世の中が一段落したとみえて仏壇購入や墓碑建立が盛んになったはいいが、それと同時に、さまざまな珍知識を仕入れてきては、「仏壇屋がああ言った」「石塔屋がこう言った」と言って、それを寺に押しつけてくるから閉口するのである。(p150)

 そして著者が白木に書いた「○○信士」という戒名が、仏壇屋が彫った位牌ではなんと「○○信七」になっていた、という話が紹介されています。くずし字が読めないばかりか、戒名には○○信士・○○信女等のつけ方があることも知らない。それでいて先祖供養のコンサルタントぶって、仏壇開眼にはこの日がいいの悪いのと根拠もなく檀家に吹き込む云々、と毒舌説法になります。

 迷信の話はまた別の話になるので、もとの話に戻ります。

 漢文が読めるのが普通の教養だった時代は終わりました。わたしは漢文に詳しいわけでも中国語ができるわけでもありません。そのわたしにとってさえ、あたりまえに思えることが、そうじゃなくなってきたようです。時の流れで、そのうち「建之(けんし)=建立のこと」と辞書に載るようになるのかもしれません。

 検索で出てきた中に、碑文の読み方の最後の箇所が、こうなっているのがあって、失礼ながら思わず笑ってしまいました。○○は日本人の姓です。

○○ 建之
○○ たけゆき

 その前までの読み方を見ると、回答者はわたしなどよりよほど学識の深い、ちゃんと読める方だとお見受けしましたが、最後が○○と姓だけだったので、勢いで名前として読んでしまわれたのでしょう。
 でも本当にこの人が「○○たけゆき」という名前だったらごめんなさい。わたしの不見識をおわびします。

|

« 外科治療には『三国志』 | トップページ | 『ジェネラル・ルージュの凱旋』 »

なむや文庫雑録」カテゴリの記事

コメント

コメントを書く



(ウェブ上には掲載しません)


コメントは記事投稿者が公開するまで表示されません。



トラックバック


この記事へのトラックバック一覧です: 「何野誰兵衛 建之」の読み方:

« 外科治療には『三国志』 | トップページ | 『ジェネラル・ルージュの凱旋』 »