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2010年5月22日 (土)

24 もの書き

 今回も前回(23 駆け出し作家たち)と同じく、植松黎編・訳『ポケット・ジョーク15 芸術家』(1985、角川文庫)からです。

もの書き

 若い天才学者が昔のユダヤ律法を研究してみごとな書物を著した。彼は、本を一冊でも多く売りたいと考え、高名な老律師(ラビ)のところに推薦文を頼みに行った。
 老師は心やさしい人物で、お茶を入れてくれ、二人で飲んでいるときにこんな話をした。
 「よいかな、お若い方よ、若い時というのは理想と情熱と夢と希望の時なのじゃ。若者はたしかにそうあるべきものじゃ。しかし人生には冷厳な現実というものもある。きみがもの書きとして生きて行こうと決めたのなら、貧困と飢えに悩まされることを覚悟しなければならぬ。それに孤独にもな。なぜなら、ものを書くというのはなににも増して孤独な労働だからのう。とにかく、五十歳になるまでは、貧困を覚悟しなければならないのだ」 
「五十歳になったら、どうなるのでしょうか?」と若者はたずねた。
 老師は微笑した。
「なに、その頃には貧乏にすっかり慣れっこになっておるから、苦にならんのじゃ」(P190)

経験

「去年、キミに送った原稿を持ってきたよ」作家が言った。
「何を考えてるんだ」編集者が驚いて答えた。「一ぺん断わった原稿をまた持ち込むなんて」
「うん、あれから一年たったんで、キミも経験をつんだはずだと思ってね」作家が答えた。(P192)

欠点

 ある小説家が、次のような添え書をつけて原稿を編集者に送った。
「この小説に登場する人物は、まったくのフィクションで、生きてるにせよ、死んでるにせよ、実在する人物とは何の関係もない」
 まもなく、原稿が送り返されてきた。次のような編集者のメモとともに。
「そこがこの作品の悪いところです」(P186)

駄作

 シンクレアー・ルイス、シャーウッド・アンダスン、それにアーネスト・ヘミングウェイとアメリカを代表する文豪が三人、集まって会食した。食後の雑談で、確実にベストセラーになる小説を作るにはどうすればいいかという話になった。その結果、文豪たちは、セックス、アドヴェンチュア、それにサクセスの三つを備えた小説ならば必ず売れるという結論に達したのだった。
 三人は協力してベストセラー間違いなしという小説を書くことにした。アンダスンがセックスの面を、ヘミングウェイはアドヴェンチュア、ルイスはサクセスを受け持つことにして、三人の文豪は相談して綿密な筋書きを作りあげた。
 各々の作家はその筋書きにもとづいて、数か月かけて執筆、それを持ち寄って文体を統一したり、不自然なところを修正したりして、全員が満足できる小説を仕上げた。彼らは、その小説をひとりの信頼できるエージェントに託した。作者名は匿名とすること、作品成立のいきさつについては、絶対に秘密とすることという条件をつけて。
 その小説はしかし、どの出版社からも突き返された。ある編集者にいたっては、次のような辛辣な手紙まで送ってきたのである。
「あなたのような見識あるエージェントが、このような素人の手すさびにも値いしない作品を扱われるとは驚きにたえません。この作家には、才能も将来性もまったく認められません。成功する小説が備えるべき基本的要件として、セックス、アドヴェンチュア、サクセスの三つがありますが、この作家は、そのどれをとっても、それを巧みに処理し、表現する能力を決定的に欠いております」(P184)

 もうひとつおまけしておきましょう。これも上のジョークと同じく、いまいちピンときませんが。

天と地と

 尊師(ラビ)のモイシュが、死んで天国にいった。
 そこは、たった三人の人間しかいなく薄明かりの中で雑誌を読んでいた。一人は『プレイボーイ』を、もう一人は『ペントハウス』を、三人目は『プリティガールズ』だった。モイシュは、何となく侘びしくなって、地獄を覗いてみようと、神に許しをえた。
 地獄の門に着くと、にぎやかな音楽が聞こえてきた。迎えに出た悪魔が、「あれはナイトクラブさ。入ってみるかい?」と陽気に案内してくれた。
 ゴージャスな内容の室内は、まるで映画のようだった。ジャズバンドが、アート・ブレーキーの懐かしい『ムーニン』を演奏していた。手拍子を打っている者、ダンスをしている者、誰もがすっかり酔いしれている。隣の部屋はランバダのディスコで、ラテンムードいっぱいですっかり盛りあがっていた。モイシュは、天国に戻ると、聖ピーター、そして三人の仲間に、自分が見てきたことをすっかり話して聞かせた。
「それにひきかえ」モイシュは聖ピーターにいった。「どうして、ここはこんなに貧乏臭いんです?人間は、たった三人だけで、やることといったら雑誌の廻し読みじゃないですか。理解に苦しみますよ」
「仕方がないのじゃよ」聖ピーターはいった。「なにしろ、人が少なすぎて、バンドも雇えんのだから」 
植松黎編・訳『ポケット・ジョーク 神さま、仏さま』P206) 

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