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2011年1月18日 (火)

井上ひさし「化粧」

 1月16日(日)は、新宿東口の紀伊国屋ホールで、こまつ座井上ひさし追悼公演シリーズのひとつ「化粧」を見てきました。
 久しぶりの新宿で、紀伊国屋を通りすぎてしまったりしましたが、無事開演前に到着。抽選で当たった席は、前から二列目の真ん中あたりという極上席でした。

Photo

 チラシの裏には、こう書かれています。

さびれた芝居小屋の淋しい楽屋。
その楽屋に遠くから客入れの演歌が流れ込んでくるやいなや、
大衆演劇女座長、五月洋子は、座員一同に檄を飛ばし始める。
開演前の化粧支度の最中も、口上や十八番の出し物、
母もの芝居「伊三郎別れ旅」の稽古に余念がない。
その慌ただしい楽屋に、洋子をたずねてくる人がいた。
それは彼女が泣く泣く昔捨てたはずの一人息子と名乗る人物であった。
息子との再会と「伊三郎別れ旅」の話が重なり合って・・・・・・。

 女座長が化粧をしながら来客や劇団員と会話をかわす中で、芝居の内容と座長の過去が交錯しつつ明らかになっていくという一人芝居です。
 一時間あまり、一人で出ずっぱり、しゃべりっぱなしで、観客を笑わせたり、ほろりとさせたり、あきさせずに話をつないでいきます。大変です。
 観客席側を鏡に見立ててありますから、一部手鏡を使ったところもありましたが、鏡を見ないで、化粧ができあがっていくところを見せなければなりませんし、着物を宙に飛ばして着てみせるという技もありました。
 左を見て訪問客としゃべり、右を見て劇団員としゃべって、違う話を交互に進行させながら、その二つの話がからんで、幼い頃捨てた子供と再開する話が展開していきます。井上ひさしの台本、うまいものです。
 わたしは見ていませんが、渡辺美佐子が当たり役として二十数年やっていた役で、今回は文学座の平淑恵です。大衆演劇の七五調のセリフがいまいちまわりがよくないのではと感じたところはありましたが、熱演でした。

 座長が昔を思い出して、赤ん坊の頃に歌ってきかせた子守歌を歌うシーンがありました。その歌は、

ねんねん猫のケツに
蟹をおしこんだ…

 「ねんねんころりよ」と同じような節です。大衆演劇ならここでほろりと泣かせるところ、逆に「猫のケツ」で笑わせるところが井上ひさしです。若い頃聞きかじったブレヒトの「異化効果」という言葉を久しぶりに思い出しました。違っているかもしれませんが、観客に感情同化させないで、客観的に見させるというようなことだったと理解しています。
 井上ひさしの「笑い」にはそういう効果があります。深刻な話題を「かわいそうだ」「大変だ」だけですまさずに、笑いを入れることで少し距離を置いて考えさせます。

むずかしいことをやさしく
やさしいことをふかく
ふかいことをゆかいに
ゆかいなことをまじめに

ということでしょうか。
 この劇も、つらい運命に泣かせるでもなく、わが子に会ってめでたしめでたしでもなく、意外な結末で終わりました。昔この戯曲を読んだことがあるので、あれ、こんな話だったっけとちょっと意外に思いましたが、二幕目はあとから書き足されたものだそうです。なるほど。

 この「猫のケツ」の子守歌、てっきり井上ひさしが作ったにちがいない、「ねんねんころり」と「山寺の和尚さん」をくっつけたなと思っていたら、ネットで調べてみると本当にこういう子守歌があるんですね。
→http://www.komoriuta.jp/ar/A06030701.html

 北関東のあたりに昔からあったようです。「蟹をおしこんだ」ではなくて「蟹がはいこんだ」のようです。これはわたしの聞き違いだったかもしれません。
 芝居ではこの歌を歌うと赤ん坊がよろこんだというのですが、北関東のあたりではそうだったのでしょうか。

 紀伊国屋ホール。若い頃、70年代に、ここで、当時評判になっていた、つかこうへいの「熱海殺人事件」を見ました。衝撃の芝居でした。それまで新劇というと左翼がかった重苦しい芝居しか知りませんでしたが、こんなのもありなんだ、これはすごい、と驚きました。あのとき誰が出ていたのか、みんな決してうまくはなかったけれど、舞台が熱気にあふれていました。
 これはわたしの懐古話ですが、なんとこんなチラシが置いてありました。2月4日からまたやるというのです。しかも長谷川京子が出て2,500円。これは、と思いましたがやっぱりもう売り切れでした。

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