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2012年6月18日 (月)

J38 福沢諭吉の開口笑話

 これは福沢諭吉が明治二十五年に刊行したジョーク集を飯沢匡が現代語訳をつけて再刊したという本。

Photo
  飯沢匡現代語訳『福沢諭吉の開口笑話』(冨山房、1986)

 もともとは福沢が創刊した新聞『時事新報』に連載したもので、英語のジョークの原文に福沢の長男一太郎による訳をつけたものだという。西洋のジョークが日本に紹介されたはじまりのようなものであろう。
  もともとの英語と明治時代の訳にさらに現代語訳の三種類がのっているので、ちょっと読みづらく、本に関するジョークにあまりおもしろいものがないのが残念だが、訳文には時代がうかがえておもしろい。

 こんな感じである。(p54~55)
  もとの英文

Book Agent:Yes, madam, this is what is termed an encyclopedia. it is filled with information, and will tell you anything you want to know.
Victim: Anything I want to know, eh?
Book Agent : Yes, madam.
Victim: Well, just made it tell where my husband was until halfpast three o'clock this morning and I'll buy it.―Binghamton Quiver.

 明治時代の訳(ふりがなは適宜省いた。以下同じ)

出版会社の売子 ハイ奥様ハイこれはナ合類節用(がふるいせつよう)と申して一切のことが書てありまして之を見ればあなたの知らうと云ふことで何でも分らないことはありません。
夫人 私の知らうと云ふことで何でも分らないことはないと
如何にも御意の通りで御在ます。
そんなら私の亭主が今朝三時半まで何処に居たのか其字引で引て見せてお呉れ夫れが知れたら其書物を買(かは)ふよ

現代語訳

それは無理

セールスマン 奥様! これはエンサイクロペディアと申しまして、何でも説明してあります。あなた様がお知りになりたいことについては、すべておわかりになるように書いてございます。
犠牲者 私か知りたいことは何でもわからないことはないのね?
セールスマン さようでございます。
犠牲者 じゃ、うちの人が今朝の三時半までどこにいたか調べてよ。わかったら買うわ。

 百科事典で何でもわかるというなら、うちの亭主の居所がわかるかというのは古典的なギャグだったが、これが最近ではGPSつきの携帯電話や街角の防犯カメラで本当にわかるようになってしまった。
 現代語訳の「犠牲者」はちょっといただけないが、客が”victim”になるくらい十九世紀のアメリカの本のセールスマンは強引だったのだろうか。続いて出てくる。

UNDAUNTED

The Daughter―How dare you fairy pound my door down?
The Book Fiend―I beg your pardon. Have I disturbed you?
Disturbed! Fly or T'll call the police! You have waked our baby.
Oh! Well, just let me get him to sleep for you while you look over a copy of The Slings and Arrows of Outrageous Fortune―only $1.

辟易(へきえき)せず

 お前はマア如何(どう)してそんなに戸をたゝくんンだよ
書籍押売人 御免なさいまし何かお妨(さまた)げでも致しましたか
 お妨げどころかへ此奴め巡査を呼んで来るぞお前のお蔭で赤子(あかんぼう)はおきてしまツたワ
押売人 おやゝゝ左様(さう)でしたか私が一寸(ちょっと)そのお子さんをお眠(ね)かし申(まうし)ませう其間(そのあひだ)に此(この)旅行日記(りょかうにっき)を御覧なさいまし代価(だいか)はたッた一円

一歩も引かず

 よくもまあ遠慮もなしにドアを叩くわね。
猛烈セールスマン 失礼致しました。お邪魔でしたか?
 邪魔も何も、行きなさいよ! さもないと警察を呼ぶわよ。赤ちゃんが起きちゃったじゃないの!
セールスマン おやおや、じゃ赤ちゃんは私にお寝かせさせて下さいませ。その間にあなた様は、この『七難八苦物語』を御覧下さい。たった一ドルでお頒け致しますよ。
(p55~56)

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NO WONDER HE TURNED ANARCIST.

Judge―"Prisoner, you were caught with a can of dynamite in your possession."
Prisoner―"Your Honor, it's necessary to my business.  I'm a book agent, and I have that can nobody dare to throw me down stairs."

無政主義の者たるも驚くに足らず

截判官 其方は爆裂薬(ダイナマイト)の鑵(くわん)を所持せし故を以て捕縛せられたる者なるぞ
罪人 恐れながら申上げます此品は私の商売の為めに無くてなりません私の渡世は新版又は豫薬出版の見本などを見せて廻ッたりして書籍を売付けることですがこの一鑵をさへ身に附けて居(をり)ますれば誰れも私を二階から突落さうとする者は御在ません。

護身用

裁判長 被告は危険物たるダイナマイトを所持した故に捕縛されたものであることを知っているね?
被告 裁判長! これは私の仕事に必要なんです。私は本のセールスマンなんですが、これを持ってる限り、人は私を二階から投げ飛ばさないんでして……
(p56~57)

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