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2012年10月27日 (土)

どうした佐野眞一

 週刊朝日の橋下大阪市長に対する悪意に満ちた記事を読んで、これを書いた佐野眞一を見直さざるをえなくなった。(→週刊朝日と橋下市長
 佐野眞一の良い読者ではないが、何冊か読んで、力のあるルポライターだと思っていた。なにしろ「ノンフィクション界の巨人」である。思い込みのはげしいところや、いかにもえらそうな書きぶりをするところはあったが、『だれが「本」を殺すのか』や『旅する巨人─宮本常一と渋沢敬三』など、おもしろく読んだ。最近のニュースから、そのうち『東電OL殺人事件』を読んでみなければと思っていたところだった。

 一番最近に読んだのは『津波と原発』(講談社、2011)。東日本大震災直後の6月に刊行された緊急取材ルポである。

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 第一部は3月18日から20日に南三陸町、大船渡、宮古などを訪れて、古い知り合いであるるとともに津波の被災者でもある、もとゴールデン街のオカマバーの経営者や「津波博士」として知られていた共産党元幹部などに会ったルポ。第二部は、4月の終わり頃に大熊町や双葉町などを訪れ、避難者や原発労働者に会ったルポに、福島原発の開発史を加えたたもの。
 ルポは当時の個別の状況を具体的に伝えているし、開発史は堤康次郎や正力松太郎など、知らなかったことがいろいろ出てきておもしろい。やっぱりそれなりに力のある作家だと思った。
 ちょっと気になったのは、オカマバーの経営者を見下すように、金にうるさくてためこんでいたとか書いてあること。リアリティを出すつもりか知らないが、旧知の被災者に対する礼儀だって必要だろうと思ってしまう。思い込みが激しく好き嫌いがはっきりしているのはともかく、えらそうなのはいけない。

 週刊朝日の件も、橋下市長が嫌いだからといって、悪意をむき出しにしてえらそうに怒鳴りつけては、逆に書いたものが信用できなくなる。権力者・社会的地位の高い人に汚い言葉を投げつけるだけで反体制になるというものではない。有名人の出自をたどるのが好きなようだが、政治家に対し政策の批判をしないで「出自が悪い」ばかり言っていてどうする。「おまえのかあちゃんはデベソだったことを暴露する」と書いて、いちばん喜ぶのは、佐野が嫌っているテレビではないか。おもしろいネタが出た、さっそくワイドショーに取り上げよう。
 橋下市長も乱暴な言葉をつかうが、「僕は相手の言葉づかい、僕に対する態度振る舞いに合わせるようにしています。」と言っている。逆襲の派手な言葉がマスコミに受けて、自分の主張を広めているところもあって、このあたりの呼吸がうまい。

 週刊朝日で連載中止になった記事を修正して、他の出版社から単行本で出すという話もあるらしい。しかし最近、佐野眞一の盗作問題が報じられている。
 ノンフィクション作家でもある東京都の猪瀬副知事が最初にツイッターで指摘した。佐野は雑誌『現代』の連載で溝口敦の著書から十数カ所も盗用して、『現代』はお詫び記事を出したことがあると。これをきっかけにインターネットには「佐野眞一氏のパクリ疑惑に迫る」という記事もあらわれた。
http://getnews.jp/archives/tag/%E4%BD%90%E9%87%8E%E7%9C%9E%E4%B8%80%E6%B0%8F%E3%81%AE%E3%80%8C%E3%83%91%E3%82%AF%E3%83%AA%E7%96%91%E6%83%91%E3%80%8D%E3%81%AB%E8%BF%AB%E3%82%8B

 これを読む限り、ほとんど弁解の余地はない。厖大な資料を読み込んで、断片をつなぎ合わせ、ひとつの大きな話を作り上げていくのがノンフィクションだから、時には間違いもあるだろうが、こんなに何度もやっていたとなると、やはり問題だ。当分の間、大手出版社からは声がかからなくなるだろう。

 そういえば以前『旅する巨人─宮本常一と渋沢敬三』(文藝春秋、1996)を読んでおもしろかったので、宮本常一の本を何冊か読んでみた。そうしたら『旅する巨人』に書かれた話のほとんどは宮本自身がすでに書いていることに気がついた。宮本の本に出てこないのは、大阪に愛人がいたという話くらい。まあこれは本人は書かないだろう。(このあたり記憶だけで、検証していないので違っていたらごめんなさい。)
 話をつなぎあわせておもしろい本に仕立てるのは作者の力量だから、これもありかと、そのときは思った。ひょっとすると宮本の文章を黙ってそのままつなぎあわせた部分もあったのだろうか。大宅壮一ノンフィクション賞をもらった本だから、そんなことはないと思いたい。ともかく宮本常一の本はおもしろく、たいした人だったのはたしかだが、佐野眞一の作品は少し気をつけて読まなければならなくなった。

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