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2012年10月25日 (木)

『政治家の殺し方』

 橋下大阪市長週刊朝日とのやりとりを読む中で、中田宏前横浜市長週刊現代スキャンダルを思い出した。
 前市長自身の本『政治家の殺し方』(幻冬舎、2011)にはこう書かれている。

 私への疑惑を要約すると、合コンでのハレンチ行為、公金横領、海外視察のサボり、前市長への裏切り、不倫騒動、飲酒運転、税金ネコババと続く。よくもまあ、これだけインチキ記事をねつ造できたものである。どれも裏づけ取材のない、いい加減な内容だ。私の周辺から意図的に流された噂話を事実であるかのように書きつらねている。(P15)

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 このスキャンダルをめぐる裁判について、ウィキペディアは次のようにまとめている。

中田は市長在任中に週刊現代から多くのスキャンダル報道を掲載されたことから、2007年11月、特に悪質であるとする以下の3つの記事について名誉毀損で東京地検に告訴した。
 ・看護学生と称する女性への強制わいせつ疑惑
 ・横浜市の公金横領疑惑
 ・市長公務の放棄疑惑
2010年10月29日、東京地裁講談社側に550万円の支払いと謝罪広告掲載を命じる判決を下した。さらに、週刊現代の一覧の記事について「裏付け取材はほとんど行われておらず、ずさん」かつ「中田の政敵ともいえる相手の情報を鵜呑みにして記事にしたことが問題であった」と言及している[9]。続く2011年12月21日の控訴審判決でも東京高裁は一審・東京地裁判決を支持し中田が勝訴した[10]
また、2008年12月24日、中田と不倫関係があったと主張する元クラブ従業員の女性が結婚が実行されずに精神的、肉体的苦痛を受けたとして中田に3000万円の慰謝料支払いを求めて横浜地方裁判所に提訴した。これに対し、中田は「交際の事実はない」と主張、2010年11月12日、「原告の主張は、具体性に乏しいうえ、十分な客観的裏付けがない」として女性の請求を棄却する判決が下された[11]
これらの判決によって、中田へのスキャンダル報道のほとんどが十分な裏付けのないものであったことが認められたが、市長在任中はスキャンダル報道が市議会でも取り上げられ、そのような事態をテレビや新聞各紙が取り上げたため、市民の中田へのイメージは悪化していった。
中田はスキャンダルが報道された背景を自身の著作物において、「市長として実行した改革が、既得権益や利権を奪われた人々の恨みを買い、その報復としてバッシング記事が仕掛けられたということだ。私のイメージダウンを図り、政治生命を絶とうとした」「政治家を殺すのに刃物はいらない。スキャンダルをでっちあげればいいというやり方である」と述べている[12]。また、不倫関係があったと主張する女性からの提訴については、スラップ(恫喝訴訟)であると主張している。
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E4%B8%AD%E7%94%B0%E5%AE%8F

 つまり報道には裏付けがなかったということで、これもひどい話である。

 中田前市長のケースがこのとおりだったということではないが、政治の世界ではこういうことがあるらしい。
 地方自治体にはよく「○○政治新報」みたいな名前のタブロイド判一枚くらいの政界新聞がある。議会関係者くらいしか読者はいない怪しげな新聞で、怪しげな人間がやっていることが多い。
 まずこの新聞に女性との噂とか汚職の噂とか、なんらかのスキャンダルが書かれる。するとそれを取り上げて「こういう噂があるが」と議会で質問する議員が出てくる。
 書かれる前、書かれた後、質問する前に、条件によっては取り消してもいいという話がもちかけられる。質問するときには、世のため噂の真偽を確かめるだけで、自分がそうだと言っているわけではないと言い逃れをしておく。
 事前の交渉を拒否し、議会ででっちあげだと答弁しても、あらぬ噂だけはまき散らされ、「火のないところに煙は立たぬ」とか言われて、どんどん評判は悪くなる。ごたごたしていると地元のまともなメディアから全国メディアにまで取り上げられ、悪評は全国に広がってしまう。こうなるともう手のつけようがない。
 メディアはそれが事実であろうとなかろうと、怪文書まがいの新聞にはこう書いてあるとか、議会でこういう質問されたと書いておけば内容に責任をとらなくてもいい。売れるとなれば、事実確認しないで伝聞をそのまま垂れ流す。
 噂の火元やメディアを訴えても、中田前市長のケースのように、裁判の結果が出るのは三、四年後で、マスコミの関心はほとんどなくなっていて、勝ったとしても大きく取り上げられることはない。結局書かれた方には大きなダメージが残る。

 中田前市長の場合、週刊現代は慰謝料を払って、紙面の片隅に小さなおわび文を載せたかもしれないが、スキャンダル記事を読んだ大半の読者はそんなことは知らない。550万円の慰謝料なんか、売れた分で十分以上に元をとっているだろう。
 
 中田氏は、任期満了前に辞任したため、このスキャンダルと開国博Y150(2009年)の赤字の責任追求から逃がれるために市政を投げ出したと非難されていた。スキャンダルについては非難される筋合いはなかったわけだ。

 今回の橋下大阪市長は、天下の朝日新聞相手にきちんとわびを入れさせた。たいしたものである。中田氏も、もっとがんばって戦うことはできなかったのか。
 『政治家の殺し方』には、スキャンダルを仕掛けられたのは、「市長として実行した改革が、既得権益や利権を奪われた人びとの恨みを買い、その報復としてバッシング記事が仕掛けられたということだ。私のイメージダウンを図り、政治生命を経とうとしたのだ。(P16)」。そしてその背後にはA議員がいた、と書いてある(P18~)。
 実名は書いてないが、市長を訴え出た女性の記者会見を取り仕切った人物だから、当時の報道を見れば実名はすぐわかる。匿名にしたのは人権尊重ということなのか、これ以上のトラブルは避けたのか。
 しかし改革を継続させ、利権を復活させないためにはA議員ときちんと戦うべきではなかったのか。任期途中で辞任してしまったことで、中田氏の横浜市政に対する影響力はなくなり、A議員は今も意気軒昂のようである。

 中田氏が当時言っていた辞任の理由は衆院選とのダブル選挙にすれば選挙費用が十億円くらい浮くから、ということだった。
 ウィキペディアにはこう書いてある。(上記URL)

2009年7月28日、2期目の任期途中で辞職を表明。辞職の理由について、第45回衆議院議員総選挙と同日に横浜市長選挙を行えば、選挙コストの削減に繋がることなどを挙げた[4]が、明確な説明や謝罪もなく、また中田が推進した開国博Y150が結果的に失敗に終わったり(中田は開国博失敗について自身の責任を明確にしていない)、多数のスキャンダルを報道される中であったため、「投げ出しだ」等の批判が相次いだ[5]

 しかし『政治家の殺し方』では、退陣を前にしてレームダック状態になることを避けることがひとつ、 もう一つは、衆院選とぶつけることでオール与党の相乗り市長候補が選ばれないようにするためだった。オール与党の相乗り市長になるとそれまで進めてきた行財政改革を元に戻されてしまうからだ、と書いている。
 ここはどうにも納得いかない。あのときのわたしの感想は「よっぽど仕事がいやになったんだろうな」というものだった。それに突然だったから、市民が事前に立候補者についてよく知ることができないうちに投票日になったという感じだった。
 一度ダブル選挙にしたところで、衆議院選挙は解散があるから流動的で、いつも市長選と一緒というわけにはいかない。開国博の責任問題はきちんとすべきだったし、次期市長に改革の継続を、というなら後継者をきちんと立てて戦うべきだった。議会に巣くう魑魅魍魎と最後まで戦うことがなにより大事だったのではないか。

 大阪市や大阪府の議会にもおそらくこの手の魑魅魍魎はいるはずである。これまでのスキャンダルは、横浜と同じように、そのあたりが仕掛けたものかもしれない。既得権益や利権を守るために橋下市長を支持している議員というのもいるのではないか。
 橋下市長による職員組合の魑魅魍魎退治はマスコミに華々しく取り上げられ、スキャンダル攻撃にはなんとか打ち勝ってきたようだが、実際の市政・府政の運営、議員たちとの対応はどうなっているのか。地元の人間でないとよくわからないところだけれど、下手すると足元をすくわれるのではないかと気になる。
 今回の週刊朝日の記事にしても、具体的な地名を書いてしまったというミスがなければ、「表現の自由」で逃げられて、えんえん悪意の連載が続いていたかもしれない。橋下市長を支持しているわけではないが、下品なスキャンダルで政治家を攻撃するのはもうたくさんだ。

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