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2014年3月24日 (月)

氷がとけると

 ようやくあたたかくなって、今年も春がやってきたようだ。

 小学校の試験で、「氷が溶けると( )になる。」という問題に、「春」になると答えた子供が×をもらったという話が有名なのは、その昔、朝日新聞天声人語に取り上げられたからだろう。1980年のその天声人語

――氷が解けたら何になりますかという問いに、たいていの子は「水になります」と答えた。むろんこれは正しい。ところがひとりだけ「春になる」と答えた子がいた。みなが一斉に同じ方向に考えを向けていた時、その子だけは別の方向へ頭を働かせていたのだ

800210ss_2  朝日新聞1980年2月10日天声人語

 「水になる」以外の答はすべて×になるような画一的な教育は間違っている、これでは個人の発想を大切にする能力が育たないという趣旨だ。
 わたしは「嘘だろ、これはよくあるクイズじゃないか」と思った。子供のころ、雑誌のなぞなぞや笑話の欄が大好きだった。その中に「氷がとけたら春になる」というのは、定番ネタとしてあったような気がする。
 どこの雑誌に載っていたとか実証することはできないけれど、クイズ好きの人なら、ありそうなネタだということはわかってもらえると思う。初めて出されたとしても解くのはそう難しくない、
 それを大新聞がもったいぶって学校教育批判の材料にしている。馬鹿馬鹿しい、この記者はクイズなどにあまり興味がないのだろう。
 学生時代、「タマネギむいたらなにが出る――涙」というなぞなぞが、映画(たしか羽仁進の「初恋・地獄篇」)に出てきて、友人のひとりがひどくおもしろがり、かつ感心していた。ああこいつは子供のころなぞなぞにはあまり興味がなかったんだな、と思ったのを覚えている。冗談方面の基礎教養に欠ける人たちもけっこういるのだ。

 このネタが、1992年の産経新聞の「産経抄」にもそっくり同じ趣旨で使われた。

「氷がとけたら( )になる。( )の中に字を入れなさい」という試験問題で、大多数の子は「水」と書いて正解だったが、一人だけ( )の中に「春」と書いた。この答えは間違っているのか。

920228        産経新聞1992年2月28日産経抄

 これを呉智英(ご・ちえい)が『サルの正義』(双葉文庫、1996、単行本は1993)でこっぴどくやっつけた。

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 新聞社のふりかざす正義は、「朝三暮四」で騙されるサルの正義にすぎない、として、上記のコラムに対しこう書く。

 典型的なサルの正義だ。たかだかコドモの謎々遊びに、何をもっともらしく感心しているのだろう。それこそ「春になると」、毎年、新聞に入試問題批判が登場する。珍問奇問ぞろい、まるでクイズのようだ、しっかりした基礎学力があるかどうかを試すのが試験ではないか、と。サルどもに借問してみたい。「氷がとけたら(春)になる」は、珍問奇問、呆答愚答ではないのか。しっかりした基礎学力とは、「氷がとけたら(水)になる」と解答する力のはずではないのか。(P13)

 しかもこれはすでに朝日新聞に書かれたネタであることを示した。

 この試験問題の話には、まだ続きがある。
 産経抄がその独創性を絶賛した「氷がとけると」の珍問愚答、実は十二年前の朝日新聞にそっくり同じ話がある。一九八〇年二月十日付の朝日新聞、それも同じ “名物コラム”の天声人語に出ているのだ。もちろん、論旨もそっくり同じ、「類型的な考え方」批判、そして独創性の讃美である。「類型的な考え方」がどれほど類型的か、全く気づかない点も、類型的なまでにそっくり同じだ。(P15)

 そして、この問題と答えは本当に実在するのか。いんちきくさく、わざとらしい。いわゆる都市伝説の一種で、サルどもの共同幻想ではないかとも書いた。
 わたしは、呉智英の批判にに共感し、実在するかもしれないが、それは謎々として解いたもので、やっぱり独創性云々とは関係ないだろうと思っていた。

 そうしたら、2010年になって、朝日新聞が天声人語にまたまた書いた。

 氷がとけたら何になる? テストである子が「水になる」ではなく「春になる」と答えたという話は、虚実はおいてほほえましい。早春賦の恩師ならマルをもらえるような気がする。春よ来い。

100204

     朝日新聞2010年2月2日天声人語

 そして今度は、その後実際に「春」と書いて×をもらった読者から手紙が来たという。18日後の2月20日の天声人語にはこうある。

テストである子が「水になる」ではなく「春になる」と答えたという話を、先ごろの小欄で書いた。伝聞だったので「虚実はおいて」と断ったら、子ども時代を札幌で過ごしたという60代の女性から便りをいただいた▼セピア色をした「りかのてすと」のカラーコピーが入っていた。「ゆきはとけるとなにになる」の問いに「つちがでてはるになります」と鉛筆で書かれている。残念ながらバツをもらい、全体の点数は85点。お母さんが取り置いていたのを、遺品の中から見つけたそうだ

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         朝日新聞2010年2月20日天声人語

 以前、テレビのワイドショーでもこのネタは取り上げられたことがあるらしいが、実在が確認されたのは、これが初めてではないか。
 上の天声人語は「テストで「春になる」と答えた人は他にもおられることだろう」と書いている。こうなると、わたしもそうかもしれないと思う。
 しかし、これは謎々にすぎないという気持は変わらない。もったいぶって子供の独創性のあらわれだなどと言うのはやっぱり違う。上の手紙を書いた人も、テストの前にそんな謎々を読んだことがあったのではないか。
 さすがに天声人語も、もう独創性礼賛はやめて、普通の季節ネタになっている。それなら目くじら立てることもない。歌でも歌って、春を迎えよう。

春になれば氷(しが)こも解けて 
どじょっこだの ふなっこだの 
夜が明けたと思うべな

 

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