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2014年4月 4日 (金)

寅さんを全部見る1/2

 映画「男はつらいよ」シリーズを、DVDで全部見た。
 昨年5月の終わりに思い立って、おおむね週に一回のペースでレンタルDVDを借りてきた。前に見たことのあるものも見直しながら、この2月にようやく全48作を見終わった。
 九カ月くらいかかったが、楽しい時間で、最後に近づくにつれ残り少なくなっていくのが残念なくらいだった。
 だんだん忘れていくので、今のうちに感想をいくつか書いておきたい。

01_3    「男はつらいよ寅さんDVDマガジン」Vol.1 (講談社、2011)

・ 正直な話わたしは、このシリーズが始まったころ、類型的なギャグばかりで、ちょっとかったるいと思っていた。第一作は1969(昭和44)年だから、わたしはまだ22歳で、もっと派手でハチャメチャな笑いの方が好きだった。わたしも若かった。
 類型的というのは、レストランでフォークとナイフがうまく使えなくて隣までステーキを飛ばしたり、渥美清が階段を落ちたりするような、これまでもよくあったギャグで、見ているとたしかにおもしろくて笑ってしまうけれど、斬新とは言えなかった。
 筋書きも、世間から落ちこぼれた常識外の人間の世間とのズレを誇張して笑わせながら、落ちこぼれであるからこそ純粋な心を持ち続けているんだという、よくある人情喜劇だ。できの悪い男が高嶺の花の女性に惚れて振られるというのもよくある話だ。 

・ しかしそれが何本かのシリーズとして定型化されてくると、これが俄然おもしろくなってきた。美人を見ると必ず惚れて最後に振られるという筋書きも、マンネリになるのではなく、赤穂浪士の討ち入りや水戸黄門の印籠のような、お待ちかねの場面になってしまった。
 それに添えられるギャグも、わたしは最初類型的と思っていたけれど、今回見てみると、渥美清は階段を落ちたり、ずっこけたりするのがとてもうまい。ずっこける体術・体技がある。これが浅草の芸なのか、アチャラカ風なのに過度にオーバーではない。現在のコントや吉本と比べると上品だと言ってもいいくらいだ。
 私が大好きなのは、寅さんが、怒って、もうやってられない家を出て行くと言って、出かかったところへなにも知らないマドンナがやって来るというお決まりの場面。あっというまに豹変してしまう寅さんの表情と態度。微妙に揺らす身体の動きが何とも言えずおかしい。
 筋書きがしっかりしていて、そのうえにギャグや啖呵売、「寅のアリア」と言われる名調子の語りなど、一流の芸が散りばめられ、美人のマドンナが入れ替わり立ち替わり出てくる。おもしろくないわけがない。

・ 最後の三作くらいは、その渥美清の身体がうまく動いていない。表情も硬かった。病気をかかえていて、かなり苦しい状態だったそうだ。それをわかっていて見ると、ちょっとつらい。

・ 1969(昭和44)年)から1995(平成7)年)まで26年間に全48作。わたしが22歳から48歳までの間の日本の情景が映し出されている。
 まったく懐かしい風景。地方の駅前の商店街、たばこ屋の店頭の赤電話、全国チェーンではない商店、食堂…
 映画はすごい。こうやって時代を切り取って保存している。
 街角や山・川の風景。たとえセットであっても、これは時代劇じゃないから、当時のそのまま、あるいは当時ありうる、ありうべきと考えられた光景ばかりだ。
 片隅に置いてある小さなものや、なにげない看板が、記憶を呼び起こす。

・ 思い出したように赤電話から電話をかける寅さんを見て思うのは、これは携帯電話のない時代の物語だということ。最終作に近い作品(47作?)で、甥の満男が勤務する会社の上役が携帯を使っているシーンが出てきたから、この頃普及し始めたのだろう。最終作には寅さんが、電話機の子機を持たされて「線がない」と騒ぐギャグがあったくらいだ。
 もし寅さんが携帯電話を持っていたら、まるで話が変わってしまう。ひょっとすると放浪も郷愁も、携帯以前と以後では意味が変わっているのかもしれない。
 そういう意味では電話のない時代の放浪と、さみしくなると電話をかけてくる寅さんの放浪とはまた違う。電話以後、携帯以後という時代区分もできるだろうか。

・ 最近の若い者には携帯のない生活はもうわからない。たしか日垣隆が書いていた。昔は女の子をデートに誘うにも、その家へ電話しなければならず、出るのはたいてい母親で、下手すると不機嫌そうな父親が出て、取り次いでもらうのも大変な気苦労だった、と。そうだそうだ。大変だったんだぞ。
 今では携帯にGPSまでついていて、どこにいるのかまでわかってしまう。街角や高速道路には膨大な数の監視カメラがある。最近ニュースになるような事件の解決に、防犯カメラの映像が果たしている役割はきわめて大きい。
 ビッグデータの処理技術の開発が進められているというから、そのうち携帯やすべての監視カメラのデータを集めて、誰がどこにいるのか瞬時にわかるようになるかもしれない。ジョージ・オーウェルの『1984年』に出てくる、ビッグ・ブラザーに監視されている社会が静かにやって来つつある。と、これは寅さんには関係ない話だった。

11dvd    「男はつらいよ 寅次郎忘れな草」DVD(第11作)

・ どの作品が一番いいかは決められないけれど、やはり浅丘ルリ子のシリーズは心に残る。北海道で一緒にテキヤのサクラをやっていた船越英二はいかにも楽しそうだった(15作「寅次郎相合い傘」)。沖縄、奄美を舞台にした「寅次郎ハイビスカスの花」(25作)、「寅次郎紅の花」(48作)では寅さんを叱りつけるリリーの啖呵がよかった。

・ 印象的だったのは「夜霧にむせぶ寅次郎」(33作)。この作品の寅さんは、マドンナ風子(中原理恵)をめぐって、サーカスの曲芸オートバイ乗り(渡瀬恒彦)と、渡世人として話をつける。カタギになった弟分の登の家を訪問しても、もう身分がちがうからとすぐ帰ってしまう。本格的な渡世人としての寅さんの顔を見せたのはこれだけではないか。
 失礼ながら、本作の中原理恵は、名前も顔も知らなかった唯一のマドンナ女優だった。「東京ララバイ」という歌は聞いたことがあったけれど。
 最後に北海道での結婚式に参列するため山越えした寅さんが、熊に襲われるドタバタシーンがある。ネットを見ると、寅さんマニアにはあんまり馬鹿馬鹿しいと不評なようだが、わたしにはおもしろかった。いかにもぬいぐるみ然とした熊に襲われてあたふた逃げ回るのは、喜劇の古典的な場面で、馬鹿馬鹿しさを楽しむところだ。

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