« JB21 IT関係ジョーク集 | トップページ | ショウ・ザ・レシート »

2014年6月16日 (月)

『蟹喰い猿フーガ』

 安倍政権が、集団的自衛権の行使容認に向け着々と進んでいる。公明党も結局容認するようだ。
 内田樹がツイッターにこう書いていた。

公明党が集団的自衛権に反対して、連立離脱する根性を見せてくれたら、今から向こう3年、すべての選挙で公明党候補に投票します。男の約束。

 わたしも1年ぐらいならと思うが、これもジョークになってしまうだろうか。結局「立ち合いは強く当たって、あとは流れで…」という話と同じだったのか、とも思えてくる。

 1990~91年の湾岸戦争で、日本は130億ドルという巨額の戦費を負担させられながら、戦争後クウェートが出した感謝決議の中に日本の名前はなかった。アメリカからは人的貢献がなかったと非難された。それが日本政府の「トラウマ」になっているという。

 船戸与一の『蟹喰い猿ザルフーガ』(1996、徳間書店)は、湾岸戦争直後のアメリカを舞台にした小説で、湾岸戦争から凱旋帰還する兵士たちのパレードが明日行われるという夜、アリゾナの州都フェニックスの酒場で、主人公の日本人が、他の客にからまれるところからはじまる。

Photo

 日本人には喧嘩をする度胸もない、中東の石油をざぶざぶ使って金儲けをしてきたのに、憲法がどうだこうだと言って、血も汗も流さなかった、こんな卑劣な連中はいない、とからんできた男は言う。それに対し、主人公はこう答える。

「いいかね、マス・メディアの連中は日本が血も涙も流さないと言って非難する。そうすりゃ新聞も雑誌も売れるしTVの視聴率もあがる。あんたがたみたいなばかが喜ぶからな。政治家もヒステリックに日本攻撃をやらかしてる。そうすりゃあんたがたみないなばかから選挙票を掻き集められるからな。しかし、本心はまるっきりちがうんだ。ちっとばかし先の読める連中は日本が多国籍軍に参加して軍隊を湾岸に送ることをこれっぽっちも望んじゃいなかった。なぜだかわかるか? 日本が軍隊を送りゃ、武器輸出禁止の原則もなしくずしに崩れるからだよ。そうなりゃどうなると思う?アメリカがイラクにぶち込んだトマホークもスカッド・ミサイルを撃ち落としたパトリオットも使われてる半導体はほとんどが日本製だ。武器を輸出していいとなったら、日本はどんどん優秀な兵器を作りだすぜ。アメリカの兵器産業にしてみりゃ悪夢さ。自動車がやられたように兵器産業もそうなると怯えるのは当然だろう? つまりな、湾岸に軍隊が派遣されるのを一番恐れてたのは日本の護憲派じゃなくホワイト・ハウスやペンタゴンなんだよ」
(中略)
「あんたがたはアメリカがイラクに勝った勝ったと浮かれているようだがな、それについても一言つけ加えとくぜ。今度の戦争で忘れちゃならないことがあるんだ。そいつはな、アメリカはもう自前じゃ戦争もやれなくなったってことさ。日本やドイツに寄附金をたからなきゃ、たかだかイラク一国も落とせないってことだよ。これからはますますそうだろうぜ。世界のどこかで何かがあるたびにアメリカは日本やドイツにたかるんだ。みっともないはなしだよ。しかし、それが現実だ。そういう意味でも日本に軍隊を派遣されちゃ困るんだ。たかる口実が弱くなるからな」(P18、下線部は原本では傍点)

 まったく日本政府もトラウマなんて言ってないで、このくらいの啖呵を切ったらどうなのか。この本を読んだとき、わたしは「アメリカはもう自前じゃ戦争もやれなくなったってことさ」というせりふに深く共感した。

 小説では、ボクサー上がりの主人公は、からんできた相手を叩きのめしたあと、まわりじゅうの客に取り囲まれ、あわやというところを、エル・ドゥロという詐欺師に救われる。そして女子プロレスのタッグ・コンビやホームレスの黒人少年も一緒になって、マフィアを相手に、アメリカに移住したクウェート人の富豪の遺産奪取の攻防を繰り広げることになる。軽快、痛快な小説である。
 「蟹喰い猿フーガ」というのは、この小説の中で、カーラジオなどからよく流れてくる曲の名前で、当時流行っていたとされているが、実在の曲ではないらしい。

 そもそもクウェートが出した感謝決議の中に日本の名前がなかったのは、そのほとんどをアメリカが持っていってしまって、クウェートにはわずかしか渡っていないからなのである。ウィキペディアにはこうある。

クウェートは戦後、参戦国などに対して感謝決議を出したが、日本はその対象に入らなかった。もっとも、当初の援助額である90億ドル(当時の日本円で約1兆2,000億円)の内、クウェートに入ったのは僅か6億3千万円に過ぎず、大部分(1兆790億円)がアメリカの手に渡ったことも要因となる。また、クルド人難民支援等説明のあった5億ドル(当時の日本円で約700億円)の追加援助(目減り補填分)の内、695億5000万円がアメリカの手に渡った(いずれも1993年〔平成5〕4月19日参議院決算委員会、外務省米局長・佐藤行雄の答弁より)。http://ja.wikipedia.org/wiki/%E6%B9%BE%E5%B2%B8%E6%88%A6%E4%BA%89

 1兆2,000億円のうち6億3千万円というのは、わたしの日常的金銭感覚に翻訳すると1万2000円のうち6円30銭ということになる。クルド人の場合は700円払ったのに向こうに渡ったのは4円50銭だけということになる。これでケチ、役立たずと言われたんじゃ立つ瀬がないだろう。

 

|

« JB21 IT関係ジョーク集 | トップページ | ショウ・ザ・レシート »

なむや文庫雑録」カテゴリの記事

コメント

コメントを書く



(ウェブ上には掲載しません)


コメントは記事投稿者が公開するまで表示されません。



トラックバック


この記事へのトラックバック一覧です: 『蟹喰い猿フーガ』:

« JB21 IT関係ジョーク集 | トップページ | ショウ・ザ・レシート »