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2015年4月30日 (木)

漢詩をつくる 

 まずは漢詩を一首ごらんください。

Photo_3

 「石甃(せきしゅう)」は石畳、「空王(くうおう)」は、仏の尊称。仏が世界は一切空であると説いたことからきています。だから「空王に礼す」は、仏を拝むことです。
 いかがでしょう、早春の山寺の風景が目に浮かんできたでしょうか。
 浮かんでくるわけないですね。なにしろこれは、私が生まれて初めてつくった漢詩です。

 某カルチャーセンターに「はじめての漢詩作り」という講座があるのを見つけました。
 高校で漢詩を習ったとき以来、「平仄(ひょうそく)をあわせる」ということがどういうことなのか、気になっていました。その後、本を読んである程度は理解しましたが、具体的にどうするのかまでは知りませんでした。それがいまどき漢詩をつくる講座があるというので、漢詩をつくりたいというより、平仄をあわせることだけでも教えてもらおうと行ってみました。
 そこで初めてつくったのが上記の漢詩というわけです。だからただ漢字を並べただけで内容もなにもないのは勘弁してください。
 できが悪いのはともかく、どうやってつくったかメモを残して置かないと、習ったことも、自分がやったこともすぐ忘れてしまうので、簡単にまとめておくことにします。

漢詩の音韻

 現代中国語には四声と呼ばれる声調があって、同じ音でも四声の違いによって違う単語になる。入門書によく書いてある例では、
同じ「ma」(マー)という音も、
 第一声…「媽」(お母さん)
 第二声…「麻」(痺れる)
 第三声…「馬」(馬)
 第四声…「罵」(しかる)
と声調によって、別の言葉になる。
(実際の発音例は下記から
https://www.youtube.com/watch?v=VIZZuFpm70w)

 漢詩は、現代中国語の四声ではなく、中古漢語の四声に基づいてつくる。中古漢語というのは、6世紀から10世紀くらい、六朝から隋・唐・五代・宋初の時代の漢語。現代中国語の四声は中古漢語の四声とは違う。実際にどういう発音になるのか、わたしにはよくわからないが、ともかくそれにあわせて韻を踏み、平仄(ひょうそく)があうようにつくる。

 平仄というのはこの四声を二つにわけたもので、四声は次の四種。
平声(へいせい、ひょうせい、ひょうしょう) 平らな調子
上声(じょうせい、じょうしょう)      尻上がりの調子
去声(きょせい、きょしょう)        尻下がりの調子
入声(にゅうせい、にっしょう) p、t、kで終わる短くつまった調子        

 このうち平声以外の三声を「仄声(そくしょう)」という。平声の平らな調子に対し、抑揚のある平らでない調子をひとくくりにしたものである。
 この平声と仄声がうまく組み合わさっていないと、詩の調子が整わない。それで次第にその理想的な配置が作詩の規則としてさだまり、詩の形式ごとに平仄の使い方の公式ができた。
 この公式にあわない字の使い方がつまり「平仄があわない」ことである。

 例えば七言絶句平起式 (起句第二文字目が平字)の平仄の公式は次のようになる。

(起句) 平平 仄仄 仄平平   ○○ ●● ●○◎
(承句) 仄仄 平平 仄仄平   ●● ○○ ●●◎
(転句) 仄仄 平平 平仄仄   ●● ○○ ○●●
(結句) 平平 仄仄 仄平平   ○○ ●● ●○◎
(平声を○、仄声を●であらわす。◎は平声の同韻)

 ところが日本語には声調がないから、漢字を音読みしても声調がわからない。平安時代遣唐使が行き来していた頃には中国語で読める人がいたけれど、その後教えられる人がいなくなった。だから江戸時代の日本人は漢詩をつくるために、平仄を暗記して覚えなければならなかった。まずこの公式は 

ヒョーヒョー、ソクソク、ソクヒョーヒョー
ソクソク、 ヒョーヒョー、ソクソクヒョー
ソクソク、 ヒョーヒョー、ヒョーソクソク
ヒョーヒョー、ソクソク、ソクヒョーヒョー

と唱えて覚えたという。詩の形式ごとにこれが何種類かある。
 そして漢字の平仄の別は、「詩語表」というものを使って覚え、上の公式にあてはめて詩をつくった。
 七言の一句は、二字、二字、三字でできている。だから作詩のために、詩でよく使う二字、三字の熟語を集めて、平仄別、主題別にまとめた「詩語表」がつくられた。

Photo 左はわたしが利用した詩語表の一部である。「春日遊山寺」「春日山行」などの主題によく使われる語句、似つかわしい語句が音韻別に並べられている。
 「○○」の熟語には「鐘楼、山門…」、「●●」には、「清境、高聳…」、「●○○」には「梵王宮、半空中…」があるというわけである。
 「○○」から「山門」、「●●」から「寂寞」、「●○○」から「落花紅」を選んでつなげると、

 「山門寂寞落花紅」
 山門寂寞として落花紅なり

という一句ができる。できばえはともかく、平仄は「○○ ●● ●○○」になる。
 初心者はこうやって、平仄を確認しながら詩語表から選んだ語句を組み合わせて詩をつくっていく。
(●●のところに小さな○をつけた熟語もある。これは○●であるが、位置によっては○●も許されるのでここに載っている。○○のところに●○があるのも同じ。)

 韻を踏むというのは、句の最後の◎のところの音を、同じ韻でそろえることである。
 わたしのつくった詩では「光」「香」「王」で韻を踏んでいる。これはみな「陽」の字で代表される「陽韻」というグループの字なので、この詩は「陽韻」である、という。
 日本語でも「コウ」「コウ」「オウ」だから、なんとなく韻を踏んでいそうな気はする。しかし、日本漢字音の語尾が同じだからといって、漢語音でも同じ韻になるとは限らない。
 例えば「東」「空」「桐」「功」などは「東韻」、「冬」「松」「鐘」などは「冬韻」、「江」「窓」「邦」などは「江韻」で、それぞれ違う韻ということになっている。どこがどう違うのか、日本語ではまったくわからない。
 これらを区別して使うためには、「韻字表」という同韻を集めて一覧にした表があるので、これを覚える、あるいは使うときに韻字表や辞書で調べるしかない。

Photo_4   

             (韻字表) 


 つまり漢詩というのは「音」が重要で、口調よく作らなければならないものなのに、日本人はその「音」をちゃんと知らないまま、文字を見るだけで「音」である「平仄」や「韻」をあわせて詩をつくってきたということなのである。
 日本人が漢詩をつくるには大変な努力が必要だったことがわかる。と同時に、これで中国人が読んでも素晴らしいと思うような詩をつくれたのかどうか、心配にもなる。

 

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