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2016年6月23日 (木)

『あらゆる領収書は経費で落とせる』

 『あらゆる経費は経費で落とせる』(中央公論社新社、2011)は、舛添要一さんの著作ではない。著者の大村大次郎(おおむらおおじろう)というのは筆名で、元国税調査官だそうだ。

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 帯を拡大すると、こう書いてある。

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 やっぱり舛添さんを思い出してしまう。しかし、この本にも家族旅行がそのまま経費になるとは書いてない。旅行費用を経費として落とすには、「1 業務として旅行する、2 社員の慰安旅行にする 3 業務に必要な視察旅行にする 」の三つの方法がある。ただし視察旅行にするためには当然レポートや視察記録が必要で、家族同伴はダメとのことだ。
 帯の文句のように、なんでもかんでも経費で落とせますよというわけではなく、きちんと業務のためであるという説明ができて、さらにそのために使ったという記録や証拠があれば、税務署を説得できるかもしれないという、あたりまえの話が書いてあるだけだった。

 最近の報道によれば、政治活動の経費というのは、政治のために遣ったと政治家本人が申告するだけで認められるものらしい。本当にそのために遣ったかどうかという一番肝心なところが、税金とはちがって野放しだということだ。
 政治のため、政治活動の一環だ。政治家の行住坐臥すべてが政治活動であるというわけで、ある意味凄い。トップリーダーが一日二十四時間この覚悟で活動しているというのであれば、一般庶民は、「がんばってください」くらいしか言うことがない。
 しかし「クレヨンしんちゃん」も中国服も家族旅行も、俺の手の触れるものはみんな政治活動だということになると、さすがに一般庶民には理解できない。理解できないというより、あまりにも身近な案件なので、いくらなんでもこれはちがうとすぐわかる。新銀行東京が千億円の赤字だと言われても巨額すぎて見当がつかないけれど、400円の漫画本や家族旅行のことは身にしみてわかる。
 それを、子どもの言葉遣いについて相談を受けたからとか、その場で会議をやったからと理屈をつけて、どうだこれなら文句ないだろう、と勝ち誇ったように言われてはたまらない。説明する、理解してもらうのではなく、オレは法には触れていないと、あくまで言い負かそうとしていた。やっぱり秀才だから、理屈で負けることはプライドが許さないのだろうし、これまでそうそう負けたこともなかったのだろう。
 中国服を着ると習字が書きやすいという話も、どうだうまい説明だろうと言っているようだった。天下の秀才で元東大法学部助教授、自他共に許す日本のトップリーダーの一人が、こんな子どもの言いわけみたいな説明で通ると思っているらしいのが驚きだった。またこれで元特捜検事の「政治資金規正法に精通した公正な第三者」の弁護士が納得したというのも驚いた。不謹慎かもしれないが、お笑い芸人のバラエティショーなんかよりずっと興味深かった。マスコミが躁状態になってしまったのも無理はないと思ったくらいだ。
 最近漢詩の本を読んでいるので遊びの一句。(平仄はでたらめ)
    書道上達中国服
   政道下落大虚言

 この弁護士のような専門家にはちょっと腹が立つ。法には触れなくても不適切なら、その法をなんとかしようとするのが専門家ではないのか。政治資金規正法は「規制法」ではなく「規正法」だからと、瑣末な話をとくとくと解説したり、素人には複雑でむずかしいからよくわからないだろうけれど、わたしには法的にはやむをえないことがわかる、どうだ凄いだろう、みたいなことを言う専門家たち。複雑なら簡単にし、ザル法なら改めることを考えるのが専門家というものだろう。
 『あらゆる経費は経費で落とせる』も、元国税庁調査官が書いているということだが、元調査官が、税金はできるだけおさめたくない人相手に、こうすればうまく経費で落とせる話を書いて金を儲けていていいのか。法律でも税金でも、自分たちでどんどん複雑にしておいて、その複雑な網目をかいくぐる技術を売り物や自慢にしているような専門家は信用できない。

 辞職により騒ぎは一段落して、法改正などの話は飛んでしまい、話題は次期都知事選という気配になってきた。
 はじめから謝っていれば、舛添さんもこんな目にはあわなかっただろうと言う人は多い。しかし、あの性格を考えると、どこかでマスコミと衝突して、やっぱりしつこくやられたんじゃないかという気もする。
 また、叩かれすぎで可哀想な気もするが、もし逆に叩く方に回っていたら、あの人は激烈な言葉で罵倒したにちがいないとも思う。
 ともかく舛添さんは、議員の政務活動費の内情を明らかにしたあの号泣県議と並んで、政治資金規正法のザル法の実情を明らかにしたトリックスターとして名を残すことになるだろう。これを機に、少しずつでも状況が改善されていくことを願う。

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