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2017年7月 3日 (月)

JB55 開高健のジョーク本

 開高健はわたしの大好きな作家である。釣りや食に関する紀行やエッセイにはよく現地仕込みだというジョークが紹介されていた。
 年表を見ると亡くなったのは1989年。もう28年もたつのか。
 

202 食卓は笑う

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    (書名)  食卓は笑う
      (著者)   開高健
      (出版者) 新潮社
      (形状)    新書判ハードカバー
      (頁数)    137
      (出版年) 1982/12/01

・サントリーの新聞広告に連載されたジョークをまとめたもの。開高のエッセイにジョークをはめこむかたちになっている。

ほんのひとひねり
 パリで。
 ある夜、私がキャフェの椅子にすわってチビチビやっているところへたくましい若者がやってきて力自慢をする。レモンを一個とりあげ、前身の力をこめ、額に青筋をたて、歯を食いしばってにぎりしめるのである。ジュースがサッとほとばしるのを見て私は感動し、兄さん、お仕事は何を、とたずねると、若者は誇らしげに、オレは市場の労働者だがときどきジムへいってボディービルをしているのさと答える。そこへ一人の老人がヨチヨチと寄ってくる。咳はゴンゴン、喉はゼイゼイの御老体。それがブルブルふるえる指をのばし、ムッシュー、ちょっと失礼しますといって例のレモンをとりあげ、指先でホンのかるくひとひねりひねったら、ジュースがザッと、最後の一滴までほとばしり、レモンはカラカラの干物みたいになる。若者と私が仰天し、異口同音に、お父さん、仕事は何してんのとたずねたら、老人はハニかんで、うなだれ、低い低い声で、イエ、なに、私ちょっと税務署に関係してますんでと、答えた。(p92)

・次は1967年の第三次中東戦争を題材にしたもの。イスラエルとエジプトなどアラブ諸国との間で行われ、たった六日間でイスラエルが一方的に勝利したので六日間戦争とも呼ばれる。
 アラブ側の敗戦の原因の一つに、エジプトではナセル大統領がロシア人の軍事顧問団をおいていたことがあるという。

沙漠の雪
 敗報また敗報でガマル・ナセルがカイロでガックリしているところへロシア人がやってきて、やさしく肩をたたいて励ましたという。「同志ガマルチク。絶望してはいけません。絶望する必要もありません。忍耐です。待つことです。待てばそのうち冬になる。冬になると雪が降る。そうなりゃこっちのもんです。われらは経験豊富ですぞ。ネヴァー・ギヴ・アップですテ」(p111)

・開高は『ベトナム戦記』の著者でもある。次のような記載もある。

 嘲罵の笑いを赤い笑いと呼ぶ。絶望のあげくの笑いを黒い笑いと呼ぶ。してみれば、つぎの挿話は一九六四年末に私がホーチミンで聞いたディ・ファクト・ストーリー(事実談)であって、まさに現実に発生したことであったが、もしこれにひとかけらの笑いがあるとすれば、どんな色をつけたらよろしいか。

 その年の末近く、南ヴェトナムの港町のダナン。早朝、薄い靄のたち迷う時刻にアメリカ人のMP(憲兵)がジープでパトロールをしていると、川岸に棺桶が一つおいてあった。この国の棺桶は白木ではなくて、黄や赤や緑に塗られてたいそうにぎやかで、目立ちやすい。MPがなにげなく拠っていって棺の蓋をこじあけたら、その瞬間、爆発が起って、MPは即死してしまった。いっぽうアメリカの空軍は爆弾の先端に”クリスマス、おめでとう”とか、”なぜいけない?(ワイ・ノット)”などとペンキで描いて、せっせとジャングルに降らせていた。(p102)

 

202.1 食卓は笑う (新潮文庫)

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    (書名)  食卓は笑う
      (著者)   開高健
      (出版者) 新潮社
      (形状)    文庫
      (頁数)    140
      (出版年) 1986/08/25

202の文庫版。作者のあとがきがある。

 

203 水の上を歩く?

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    (書名)  水の上を歩く?
      (著者)   開高健島地勝彦
      (出版者) TBSブリタニカ
      (形状)    四六判ソフトカバー
      (頁数)    312
      (出版年) 1989/03/29

・「サントリークォータリー」に連載された、当時の「週刊プレイボーイ」編集長島地勝彦とのジョークをめぐる対談をまとめたもの。

・対談の中でジョークを披露しあう形になっているので、会話とジョークが混ざっていて、読むジョークとして整理されていない部分がある。
 ジョーク部分には通し番号がついていて、巻末には索引がある。

・対談の中に、開高の体調不良をうかがわせる記述が散見される。開高はこの本が刊行された年の暮れに亡くなった。けっこう無理してこの対談もこなしていたのでは、と思われる。

東アフリカの飢餓問題をさらに調査するために、アメリカ、日本、イギリス、ドイツ、フランスなど先進諸国の学者が派遣されたんです。それで山間僻地まで入って行くんだけれども、地図にものっていない村落で人喰い人種に全員つかまっちゃった。食い物がなくなってるときだし、ご馳走にありつけたというんで村中お祭り騒ぎで、焚き火をたいて大きな釜をすえ、最初のご馳走に、メガネをかけ短足ヤセギスの日本人の学者を引っぱり出した。驚いたこの先生、大声で泣いて喚いた――「どうしてオレみたいにやせっぽちで小さいのから食うんだ。あっちのドイツ人なんて、肥ってて、柔らかそうでうまそうなのに……」そしたら酋長がニンマリして――「おちつけ日本人よ。この辺りでもここんところ、日本食ブームで名……」(p48)

記事は簡潔に
 新入社員の新聞記者が、記事はできるだけ簡潔に書けと言われて、書いてきた。
「トム・スミス氏は、昨夜九時、自宅ガレージにて愛車の燃料タンクにガソリンがあるかどうかを調べるため、マッチをすってみた。あった。享年44歳」(p55)

船に乗るなら
 あるとき、チャーチルがイタリーへ行くことになった。ところが、彼はイギリスの船会社の船に乗らず、イタリーの船を予約した。まわりの連中が驚いて、なぜわが国の船を利用しないのかと訊くと、チャーチルが答えていわく――「イタリー船はまず食い物がうまい。次いで、サービスが行き届いてる。最後に、救命ボートに女子供を先に乗せろとは書いてない」(p164)

203.1 水の上を歩く? (集英社文庫)

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    (書名)  水の上を歩く?
      (著者)   開高健島地勝彦
      (出版者) TBSブリタニカ
      (形状)    文庫
      (頁数)    320
      (出版年) 1993/01/25

203の文庫版。

・巻末に島地勝彦の「開高健――研ぎ澄まされた哄笑」と題する回想文がある。

※以下おまけ。作家になる前、開高健が編集していた壽屋のPR雑紙「洋酒天国」をまとめた本の文庫本判。ジョークも少しある。

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