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2017年11月16日 (木)

江南4 魯迅紀念館

 昼食の後は魯迅紀念館へ行った。魯迅公園の中にある。近くには魯迅故居と魯迅の墓もあるそうだが、そちらは行かなかった。

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 記念館だから型どおり、経歴や作品紹介、当時の写真、作品掲載誌などが並んでいる。わたしはざっと見るだけでよかったが、意外なことに同行の皆さんは熱心にあれこれ見ている。

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 魯迅は高校生のころ、『阿Q正伝』『狂人日記』などを読んだが、どこがいいのかよくわからなかった。若者がどかんと感動するような作品ではない。
 しかし中国ではきわめて評価が高い。革命運動の指導者的存在であったことが大きいのだろう。
 それに、わたしにはよくわからないことだけれども、「中国に近代文学を成立させた」と評価されるのは、文体の問題があるのだろうと思っている。新しい口語の中国語の文体を作った。言ってみれば、革命運動に参加した夏目漱石のような存在であったのではないか、と夢想する。

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 一室には壁の両面に魯迅の研究書ばかり数百冊展示してあった。多すぎる。これだけあると半分ぐらいは中身の薄いヨイショ本に違いない。
 しかし日本の漱石だって研究書や論文はこれに負けないくらいあるだろう。双方とも、文学研究者にとっては欠くことのできないメシのタネというわけだ。
 魯迅も漱石も尊敬している。研究と称する同工異曲で内容のない本が多いのにちょっとうんざりしているだけだ。

 第3日の蘇州の漢詩愛好団体との交流会で、魯迅の漢詩を書いた書をいただいた。

Dscf7137t 魯迅が1931年3月、日本人の劇評家升屋治三郎に贈った詩で、無題であったが、全集などでは「贈日本歌人」と呼ばれているようだ。

 無題 (贈升屋治三郎) 

            魯迅

 春江好景依然在

 遠国征人此際行

 莫向遙天望歌舞

 西遊演了是封神

  
 春江の好景 依然として在り

 遠国の征人 此の際行く

 遙か天に向かい歌舞を望むこと莫れ

 西遊 演じ了する是れ封神

  〇春江 春申江を指す。黄浦江の別名。

 この詩の意味がいまいちつかめない。西遊は京劇の西遊記のことだろうか。
 それはともかく、日本から漢詩好きが来るんだから、日本人にちなんだ詩を、とわざわざ書いてくださったものだ。ありがたい。

 この魯迅公園の近くが昔の日本人居留地で、内山完造の内山書店もあって日中文化人のサロンとなり、魯迅や郭沫若なども出入りしていた。升屋治三郎もその一因だったというわけだ。
 内山書店は今も神田にあって、中国・台湾系の書籍の専門店として有名である。
 

 追記:「贈日本歌人」について、魯迅全集で確認した(第9巻、学習研究社、1988年2刷)。
 読み下しと訳は次のとおり。

 春江の好景 依然として在り

 遠国の征人 此の際(とき)に行く

 遙か天に向かいて歌舞を望む莫(なか)れ

 西遊 演じ了(おわ)れば 是れ封神

 春申江のすばらしい風景は、昔のままに存在するが、遠い国からやってきた旅人たるあなたは、このときに、お国にお帰りになる。
 はるかかなたの日本の空から、中国の歌舞をながめようとは、なさるな。「西遊記」の上演が終われば、つぎは「封神演義」というありさまなのだから。

 起句、承句は升屋治三郎が日本に帰るという話で問題はない。
 転句、結句については、当時の蒋介石政権の状況を「西遊記」や「封神演義」の魔物たちの踊る姿に例えたものだという。
 また当時の京劇が「西遊記」や「封神演義」をゆがめて演劇化しているのを非難したものだという説もあるらしい。
 どちらにせよ、当時の状況を詳しく知らないと、この詩だけではわからない。

 

 

 

 

 

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