声に出して覚える漢字

2010年3月28日 (日)

漢字の覚え方一覧

 以前書いていた「声に出して覚える漢字」は、中途半端なまま終わっていますが、ときどき検索フレーズのヒットがあるようなので、中に出てきた漢字の覚え方の一覧表をつけておきます。残念ながら、あまり役に立ちそうなものはありませんね。

   漢字  覚え方
 あいさつ  挨拶  むやみにくった(※「つくり」の覚え方)
 あいとこい  愛と恋  愛は真心、恋は下心
 あさ    十日十月『朝』が来た
 あたま    いちくちソいち、いちノめハ
 いかり    女の又に心
 いぬ  戌・戊  イヌ(戌)にボウ有り,ボウ(戊)にボウ無し
 いのち    命はAOP
 う・かん  于・干  ウ(于)カン(干)はね,ぼう
 うつ 1    林に空き缶 を捨てたら、環境破壊で『凶』で、ヒ~~~
 うつ 2    リンカーンはアメリカンコ ーヒーを三杯飲んだ。
 うつ 3    きかんじゅう、わっと驚く米屋さんのヒサン
 うるわしい  しい  鹿がめがね掛けて、私きれい?
 おどろく    ケイマに驚く
 くま 1    むつきひーひーどどんがどん
 くま 2    ムつきてんてんヒヒてんてん
 こい    いとし いとしと いうこころ
 ことぶき    侍の笛は10寸。(士のフエは一インチ)
 さくら   二階の女が気に掛かる(二貝の女が木にかかる)
 さわぐ    馬の又に虫が入ってさわぐ
 さい  栽・裁・戴・載  木はウエル、衣はタツなり、異なるはイタダクなれば車ノスなり。(「戴」の音は「タイ」)
 し    横棒でターっと叩いたらヒーって死ぬ
 しき・しょく  識・職・織・幟  言うはシキ(識),耳シヨク(職)なれば,糸はオル(織)巾偏こそはハタジルシなれ
 しゅ    民主の主の字を解剖すれば、王の頭に釘を打つ
 じゅう・かい  戎・戒  十(じゅう)ジュウ(戎)、廿(にじゅう)カイ(戒)
 すい    粋人は 米を九十回も かみ
 そう    イトーハムの心
 つめとうり  爪と瓜  瓜に爪アリ、爪に爪なし(うりにつめあり、つめにつめなし)
 つゆ    雨のあと、路ゆく人は露にぬれ
 てつ    金の王なる哉(かねのおうなるかな):「鉄」の旧字です。
 てら    ドスンとお寺で音がした
 とおる・きょう  亨・享  トオル(亨)は通らず、通るはキョウ(享)
 ど    女の又に力
 はな    自(おれ)が田は廿(にじゅう)もあると鼻にかけ
 ほれる  れる  深切な心忽ち人が惚れ
 み、おのれ、すで 1  巳・己・已 ミは上に、オノレ、ツチノト下につき、スデニ、ヤム、ノミ中ほどにつく
 み、おのれ、すで 2  巳・己・已  ミ(巳)は上に,スデニ(已)半ばと思えども,オノレ(己)は下と思え世の中
 み、おのれ、すで 3  巳・己・已  ミ(巳)シ(巳)は上,ヤ(已)むイ(已)はスデ(已)に半ばなり,オノレ(己)ツチノト(己)コ(己)キ(己)下につく」
 み、おのれ、すで 4  巳・己・已  スデ(已)半ば、オノレ(己)は下に付きにけり。ミ(巳)は皆付きて、「イ(已)キ(己)シ(巳)」とぞ読む
 むらさき    此の糸は紫(このいとはむらさき)
 らん    草葺きに門を構えて西側の向ひに秋の花ぞかをれる

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2009年5月30日 (土)

已己巳の覚え方正解!

 「声に出して覚える漢字」のカテゴリーは久しぶりです。昔聞いた「已己巳(すで、おのれ、み)」の覚え方がちゃんと思い出せない、というところからはじめた話(声に出して覚える漢字)でしたが、結局正解がわからないまま終わっていました。

 それが突然、正解に出会いました。BIGLOBEの「なんでも相談室」です。

已(すで)半ば 己(おのれ)は下に 付きにけり 巳(み)は皆付きて 「已(い)己(き)巳(し)」とぞ読む
http://soudan1.biglobe.ne.jp/qa1514785.html

 なるほどそうだったのか。わたしは「已(すで)半ば、己(おのれ)は いでず、巳(み)は…」というかたちだと思っていたのですが、これはどうも下の方の、「已(い)己(き)巳(し)…」をちゃんと覚えられず、自分で変型していたもののようです。思い出せないので勝手に縮めて

已(すで)半ば 己(おのれ)は下に 巳(み)は付きぬ

でいいやと思っていたのですが、とうとう正解に巡りあうことができ、長年の疑問が解けました。
 こうなったら、あらためてちゃんと覚えることにしましょう。ではもう一度

すで   おのれ                
已半ば 己は下に 付きにけり
  み         い き し
 巳は皆付きて 「已己巳」とぞ読む

 

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2007年12月30日 (日)

『はじめちょろちょろなかぱっぱ』

 こんな本を見つけました。
 
 高柳蕗子『はじめちょろちょろなかぱっぱ 七五調で詠む日本語』
 (2003年3月10日、集英社、1400円)
 
 本屋の店頭で、わたしが探していた本がとうとう出たか、と驚きました。帯に
は「リズムにのって覚えたい日本語たち/ゆたかでおいしいことばが満載/七五
調のやさしいコトダマ…」とあり、目次を見てみるとなんと
 
 〔実用編・言葉のモバイル〕
 一 ニカイの下に女あり……字を覚える
   「櫻」の字を覚える/「戀」の字を覚える/「松」の字を覚える/
   小野篁歌字尽/「叡」の字を覚える/「壽」の字を覚える/「熊」
   の字を覚える/「業」の字の筆順を覚える/巳己已の区別を覚える
   /瓜と爪の区別を覚える
 二 せりなずな……暗記はまかせて
  
と、これはほとんどそのまま。
 最初の「「櫻」の字を覚える」の箇所を見ると、「木の横のニカイの下に女あ
り」「十八のニカイの下に女あり」「櫻という字はヤッコラヤノヤ分析すればノ
ウチゴドン二階の女が気にかかる」と、三種類の覚え方が出てきます。

 さっそく買って読んでみると、残念ながらいささか期待はずれでした。わたし
の期待が大きすぎたのかもしれません。
 一番残念だったのは、覚え方が出てくる漢字が少ないことです。目次にあがっ
ている字の他にはあまりありません。だから、わたしにはあまり新鮮味がなく、
櫻や戀の字はもういいよというところです。
 わたしの最大の関心事、巳己已の区別は

・みは上に、おのれ・つちのと下につき、
 すでに、やむ、のみ中ほどにつく
・中につくすで(已)にイの声、下につく
 己(おのれ)キの声、上は巳(ミ)の声
・キ・コの声、オノレ・ツチノト下につき、
 イ・スデは中に、シ・ミは皆つく

3種類の覚え方がでてきました。またバリエーションが増えてしまいましたが、
わたしの疑問(「すでなかば、おのれはいでず…」という覚え方)は解消されま
せん。

 それでも、いくつか新知識がありましたので紹介しておきましょう。
 
 「松」:松という字を分析すればキミ(公)とボク(木)との差し向かい
 「語 証 誠 調 警」:吾語る正しき証(あかし)誠(まこと)成る
             周(あまね)く調べ敬し警(いまし)む
 「明 映 星 晴 曇」:月明かり央(なか)ば映して星生まれ
             青く晴れても雲あれば曇
 「叡」:片仮名のトの字ベキの字※一の谷
     口を目にして作り又なり
       ※ベキの字=ワかんむり
 「業」:たてたてチョンチョンよこチョンチョン
     よこよこよこのたてチョンチョン
     
 著者は「歌人、1953年生まれ」とのことですが、『小野篁歌字尽』の作者は小
野篁だと書いているのはちょっといただけません。

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2007年12月26日 (水)

歌って踊れる漢字の覚え方

 「歌う生物学」については、高校時代の友人から次のようなメールをもらいました。
 
> この人は、数年前に教育テレビで、ナマコかなんかの講義をしていた人で、お世辞
>にも歌がうまいとは言えないけれど、何かあれば歌ってみたくなってしまう人種のよ
>うです。私めも分類学上その範疇に属する人間で、(中略)でも、彼の歌を聴いてい
>ると、自分が他人にいかに迷惑をかけていたのかと恥じ入っています。 彼自身は本
>当に歌うことを楽しんでいるので、まあいいじゃないの、と、これは自己弁護でも
>あります。

 また、高校の生物の先生をしている大学時代の友人からは、次のようなメールをもらいました。

> この先生は、実は前から知っていました。
> なまこの研究で時々テレビにも出てきて、なまこの歌も歌っていました。
>
> 歌の視聴をしましたが、生徒には歌を覚える方が普通に内容を覚えるよりも辛い
>のではないでしょうか。 それに、歌の内容は高校の基本的な生物の内容で、大学
>生に教える内容としてはちょっと幼稚ですね。
>
> でも、ポイントはつかんでいます。 もう少し歌いやすい歌にしないとついてい
>けません。 彼は、クラシックなどにもとても興味を持っていて、自分自身はどん
>なタイプの歌にでも対応できますが、生徒はとても付いていけないような気がしま
>す。
>
> この本は是非私も買って、生徒に聞かせてみようと思います。 反応を見て、報
>告致したいと思います。

 後日、報告があったらまた紹介したいと思いますが、なまこの歌で有名な先生だったんですね。歌には問題があるようですが、趣向としては、やっぱり「声に出して覚える漢字」が負けていると感じざるをえません。
 そこで、対抗するために「歌って踊れる漢字の覚え方」をあれこれ考えてみたんですが、さっぱり思いつきません。
 似たようなものといっても、西条秀樹の「YMCA」は漢字じゃないし、ほかに思い出したのは、

 大学生のにいさんに
 大という字をおそわった

という歌があったことくらいです。どんな曲だったか、うろ覚えなので、インターネットでさがしてみると、ありました。下のページで「大という字」を検索すると、歌詞も曲も確認することができます。
http://www.mahoroba.ne.jp/~gonbe007/hog/shouka/00_songs.html

 実は、思い出したのはこの歌というより、その昔、江口寿史のマンガ『すすめ!パイレーツ』に、この歌を歌いながら「大という字をおそわった」のところで、思いっきり両手を広げて、隣の人をひっぱたくというギャグがあったということなのですが、ほかに覚えている人はいるでしょうか。いないでしょうね、きっと。
 
 『小野篁歌字尽』には
 
水 氷 木 本 大 犬

てんうてば水はこおりよ 木はもとよ 大にてんある犬とよむなり

というのもあります。

だからこれを応用して、ちょっと考えてみました。

「大という字をおそわった」に続けて

大という字に点をつけ、
犬という字もおそわった。
太いという字もおそわった。
一をつけたら天になり、
頭を出したら、おっとっと(=夫のつもり)

 うーん、どう考えても受けそうにないですね。それに、そもそもわたしは音痴で、歌えないんです。
 「歌って踊れる漢字の覚え方」は前途多難です。

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2007年12月19日 (水)

負けた!「歌う生物学」

 2003年2月21日の朝日新聞に『歌う生物学 必修編』という本の広告がありました。下の写真です。うたい文句は、
 「これさえ歌えば高校[生物]はマスターできる」
 「新指導要領の項目を網羅した70曲」
 「著者みずから歌うCDつき」
 負けました。「声に出して覚える漢字」では太刀打ちできません。

Utauseibutugaku  
 いったいどんなものか、これもインターネットで探してみると、紹介と、そのうち何曲かを、ちゃんと試聴できるようになったページがありました。ほんとにインターネットって便利ですね。どうかみなさんも試聴してみてください。
 
 啓林館のホームページ
 http://www.shinko-keirin.co.jp/kori/science/sci_index.html#uta
 
 「勇気リンリン アドレナリン」とか、わたしはほとんど抱腹絶倒でしたが、この著者は、大学の講義の時間にまじめな顔をしてこういう歌をうたってきたそうです。(くわしくは本川研究室の次のページでどうぞ。
http://www.motokawa.bio.titech.ac.jp/song 

 これは、ほんとに学生の役にたつんだろうか。
 ぜひとも、教員関係の方々の、ご意見をうかがいたいところです。
 
 この本川達雄というのは、なんと、ちょっと前にベストセラーになった『ゾウの時間ネズミの時間』(中公新書)の著者です。
 これはおもしろい本でした。わたしも、ところどころ「ほんとかよ」と、眉に唾つけながらですが、楽しく読んだ記憶があります。科学書というより、昔の小松左京のSFを読んでいるような感じでした。
 読んでいない人のために、どんな本かを紹介しておきます。
 以下は、「千葉大学教員の選んだ100冊」というページに載っている紹介です。(ほんとにインターネットは便利です。自分で読み返して紹介するとなると大変ですが、カット&ペーストで、一瞬にできてしまいます。)

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 動物のサイズが違うと、行動の機敏さや寿命や体内現象が起こる時間が変ってくる。大きな動物ほど何をするにも時間がかかる。食事量、生息密度、行動範囲、運動速度もサイズによって決まってくる。ところが、ゾウもネズミも一
生の間に心臓は約20億回打つ。心臓の拍動を時間として考えれば、ゾウもネズミも同じ長さだけ生きて死ぬことになる。動物が変れば時間の流れる速度も変るのである。本書はサイズの視点から動物をみた生物学入門書ではあるが、人間の理解についても多くの示唆を与えてくれる。著者が述べているように、「人間がおのれのサイズを知る、これは人間にとって、もっとも基本的な教養であろう」。生物のみならず人間についての格好の教養書である
 http://www.ll.chiba-u.ac.jp/100bs/055.html
------------------------------

 これは、実森正子という文学部の教官が書いているようですが、この人は「ほんとかよ」とは思わなかったようです。著者の歌を聴いてkらから読むと、また違ったかもしれません。
 
 しかし、いまさら「歌って踊れる漢字の本」というわけにはいかないし、この先どうしようか。

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2007年12月 7日 (金)

「日本教科書大系・往来編」七巻

 往来物倶楽部で教えてもらった「日本教科書大系・往来編」七巻を、図書館から借りてきました。この教科書大系というのは、往来篇15巻、往来篇別巻が2巻、近代編が27巻の全44巻、1冊600ページ前後、古往来から近代の小学校教科書まで、各種の教科書を収録して、それに解説・解題がついているという壮大なものです。大学や図書館でもないととても買えません。
 往来篇七巻にはたしかに『小野篁歌字尽』が活字になって載っています。三系統の刊本が出ているとのことでしたが、もう一つ『訓蒙夷曲歌字尽』をあわせて四種類あります。変体仮名を勉強しなくても読める!

 最初の本を見てみましょう。おおむね一行に五つくらいの漢字があって、一二六行、六六四字が出てきます。

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椿 榎 楸 柊 桐
春つばき 夏はゑのきに 秋ひさぎ 冬はひらぎ 同(おなじく)はきり

栢 柏 松 杦 檜
百はかや 白きはかしわ 公(きみ)はまつ 久しきはすぎ 會(あふ)は
ひのきよ

柘 榴 桃 李 杏
石留(とむる)ざくろなり 兆(てう)はもも 木に子口(こくち)すもも
からもも

柳 樽 柿 梔 花
卯(う)はやなぎ 尊(たっとき)はたる 市(いち)はかき 木に巵(さ
かずき)はくちなしのはな
------------------------------

 このように、木偏の漢字から始まっていきます。しかしこれだけ見ただけでも、当用漢字にはなさそうな字や、今は使われていない字や読み方があります。
 わたしは楸(ひさぎ)という木を知りません。杦は杉と書きたいし、杏(あんず)と「からもも」が同じ物かどうかもわかりません。それに、梔(くちなし)を覚えるために、まず「巵」をさかずきと読むことを覚えなければなりません。
 さらに、中にはこんな字がほんとにあるのかよ、と言いたくなるものもあります。木を三つ書いたら森、日を三つ書いて晶(ひかり)はわかります。しかし同じように、火を三つ書いて「ひばな」、水を三つ書いて「ふかし」と読むというのです。往来物倶楽部に画像付きで出ていますからごらんください。
 そんなわけで、そのまま「声に出して覚える漢字」として現在使うわけにはいかなそうですが、使えそうなのや、おもしろそうなのをいくつかひろってみました。なんか久しぶりに本題の話になりました。

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休 伏 伸 任 件
木はやすむ 犬はふすなり 申(さる)のぶる 壬(みずのえ)まかす
牛はくだんよ

錢 餞 淺 賤 棧
金はぜに 食(じき)ははなむけ 水あさし 貝はいやしき 木こそかけはし

時 侍 痔 峙(そばだつ) 待
日はときに 人はさふらひ 病はじ 山はそばだつ ■(たたずむ)はまつ
(注:■=「ぎょうにんべん」を書いて、「たたずむ」と読む)

都 鄙 郡 卻(しりぞく) 邪
者みやこ ■(ひな)いなかなり 君こほり 谷はしりぞく 牙はよこしま
(注:■=鄙の左のへんを書いて「ひな」と読む)

慕 募 暮 蟇 墓 幕
水したふ 力はつのる 日はくるる 虫ひきがへる 土(と)はか 巾(き
ん)まく
(注:「慕」の字の下には、しっかり「水」の字が入っています)

申 牛 甲 午 戌 戊
申(さる)牛(うし)は いづるにいでぬ 甲(きのへ)午(むま)
戌(いぬ)にてんあり なきは戊(つちのへ)

巳 己 已 巳
巳(すでに)かみ 己(おのれ)はしもに つきにけり
已(み)はみなはなれ 巳(つち)はみなつく
------------------------------

 巳己已巳は、やっぱり巳(い)己(こ)已(み)巳(き)と読みがながついています。 以前、読んでもらった「巳(すで)にうえ、己(おのれ)はしたにつきにけり、己(み)はみなはなれ、巳(つち)はみなつく。」とは、「かみしも」「うえした」の相違はありますが、後は同じで、巳を「すで」、「己」を「ミ」、4番目の「巳」を「ツチ」と読んでいます。この項は、もともといい加減に作ってあったとみえます。

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2007年12月 1日 (土)

『小野篁歌字尽』原本購入

  どうも変なところにはまりこんでしまったようで話が進みません。ドツボにはまってトッピンシャン、というわけで今度はとうとう『小野篁歌字尽』の原本というか、江戸時代の版本を購入してしまいました。

 薄汚くて、シミがあるし、綴じ糸はたるんでいるし、いかにもくたびれていてシワがある、しかも小さい。文庫本より一回り大きいくらいで、薄い。なんと厚さ二ミリ。これが五千円。重さを量ってみたら16グラム。1グラム312.5円につきます。しかし、目方で本の価値をはかってはいけません。
 
 弘化二年(1845))和泉屋市兵衛板となっており、以前紹介した、京大図書館谷村文庫の『小野篁歌字尽』と同じ版本のようです。変体仮名の勉強をしなければいけませんね。

Photo

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2007年11月10日 (土)

「往来物倶楽部」へ質問

 「巳己已巳」の謎については、もう専門家に聞くしかないと、小泉吉永という
往来物研究者の「往来物倶楽部」というホームページ(http://www.bekkoame.ne.jp/ha/a_r/indexOurai.htm)の掲示板で、質問してみました。
 以前『小野篁歌字尽』の概要を紹介したのは、このホームページからの引用で
した。「往来物」については、同じく次のような解説があります。 

------------------------------
往来物とは、主に寺子屋で使用された初歩教科書の総称です。中古・中世に作られた往来物(古往来)の多くは、貴族子弟の学習用に編まれた往復書簡(模範文)であり、手紙文の行き来(往来)の意から「○○往来」という呼称が一般化しました。近世においては書簡文の体裁をとらない初歩教科書(「実語教・童子教」等の教訓文や「御成敗式目」等の法令文など)を含めて広く「往来物(往来本)」と呼ぶようになりました。 
 http://www.bekkoame.ne.jp/ha/a_r/A11.htm
------------------------------

 わたしの質問は次の二点です。

1『小野篁歌字尽』の活字本というのは存在するのでしょうか。あるとすれば、
題名、出版社等をお教えください。
2『小野篁歌字尽』の中で、「已己巳」の字が、「巳己己巳」のように4文字に
なっているようですが、これはどういうわけでしょうか。
 江戸時代には、4文字として通用していたのでしょうか。
 また、「巳」を「すで」あるいは「つち」と読んだり、「己」を「ミ」と読ん
でいるように見えるのですが、いかがでしょうか。

 素人の質問に答えてもらえるかどうか、心配だったのですが、小泉吉永さんか
らとても丁寧な回答をいただきました。

------------------------------
(1)「小野篁歌字尽」の活字本は、下記のように類書を含めて、「日本教科書大系・往来編」七巻(講談社、昭和四七年)に活字になっています。ただし、解説は私の編著『往来物解題辞典』の方がより新しい資料に基づく正確な記述になっていますので、下記(石川松太郎先生執筆)を参考にしてください。
 また、活字版自体の誤植の可能性もありますので、きちんと調べられるのでしたら、大空社刊の「往来物大系」一六巻や「稀覯往来物集成」一一巻をあわせてご覧になるとよろしいと思います。

(2)往来物に限らず江戸時代に流布した本には、文章の一部が異なる色々な異本が生じたり、文章の前後が入れ替わるなどの異同が生じることがあります。「小野篁歌字尽」の場合には次の(イ)(ロ)の二つの系統に大別できますが、そのいずれもが「巳(*漢字の第一画と第三画が接触、第二画と第三画は接触せず* い/すでに)・已(*第二画と第三画のみ接触* こ/おのれ)・巳(*第三画が第一・二画の両方と接触しない* み)・巳(*全ての画が接触し合う* き/つち」の4文字になっています。ただし、最後に掲げた(ハ)は「巳(*全ての画が接触し合い、第一画の横棒が左に突き出る* い/すでに/おはり/やむ/はなはだ)・已(*第二画と第三画のみ接触* き/おのれ/つちのと)・巳(*全ての画が接触し合い、第三画の縦棒が上に突き出る* し/み)」の3文字ですので、これらと同様な異同が生じた結果と思われます。また、漢字の読み方や記載にもしばしば誤記が見られますように、校訂が必ずしも十分ではない写本による伝達が大半をしめていたと思われる江戸時代では、誤記や校訂不足が諸本による異同や混乱の原因になっているものと思います。

(以下、次の三系統の刊本の説明が続きますが、ちょっと長くなるので省略します)
(イ)おののたかむらうたじづくし 小野篁歌字尽(寛文二年板系統)
(ロ)おののたかむらうたじづくし 小野篁歌字尽(延宝三年板系統)
(ハ)たいぜんうたじづくし〈小野篁大増補〉大全歌字尽
------------------------------

「いやあ、インターネットって素晴らしいですね」と、言いたくなります。大学
の先生なら同僚の国文の先生にちょっと聞いてみることもできるのでしょうが、
わたしにはそんなつてはありません。それが、いとも簡単に専門家からの回答を
もらうことができました。

 「巳己已巳」についての回答は、大学時代の友人の説と同じく、誤記や校訂不
足によるものであろうとのことで、4文字通用説は認められないようです。
 そうすると、最初に「巳己已巳」の項を書いた人物が、かなりいい加減であっ
たということになります。
 
 さあ次は、活字になっているという「日本教科書大系・往来編」七巻に当たっ
てみなければなりません。

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2007年11月 5日 (月)

小野篁伝説

 さてちょっと話を戻して、再び小野篁です。関係ホームページを見ていくと、いろんな伝説がある人だということがわかりました。
 漢字に関することでは、前に書いた嵯峨天皇が出した謎は「子子子子子子子子子子子子」ではなく、

「一伏三仰不来待書暗降雨慕漏寝」

を読めというものだったという話もあるそうです。小野篁はこれを「月夜には来ぬ人待たる掻き曇り雨も降らなん恋ひつつも寝ん」と読んでみせた。(「一伏三仰」というのは、月夜は「一度伏し、三度仰ぎ見る」ものだから。 というものや、そのほかにも、

「二冂口月八三 中とほせ」
「木頭切月中破」

などの謎に答えたということです。
「二冂口月八三 中とほせ」は、「二冂口月八三」の真ん中に線を引けということで、答えは「市中用小斗」、「市中では小斗を用いる=市(いち)では小さな升(ます)を用いる」となる。
「木頭切月中破」は「木の頭切れて、月の中破る」で、答えは「不用」です。


 漢詩の才能が唐の白楽天に匹敵するほどだったという伝説もあります。
 やはり嵯峨天皇が、自作の詩として

閉閣只聽朝暮鼓  閣を閉じて只だ聴く 朝暮の鼓

上樓遙望往來船  楼に上りて遙かに望む 往来の船

この二句を小野篁を見せたところ、篁は、「遙」を「空」にして「楼に上りて空しく望む」としたら、もっといいでしょうと言った。
 ところがこれは、そのころ渡来したばかりで天皇が秘蔵していた『白氏文集』の「春江」という詩の一部で、「空」を「遙」に変えて、自作の詩だとして見せたものだった。小野篁の詩情は、白楽天(白居易)と同じである、と天皇は驚いた、というものです。

 そういえば、この話は、ずっと昔に聞いたことがあります。これが小野篁の話だとは覚えていませんでしたが。
 もうこれで、江戸時代の「漢字の覚え方」の先生としての資格は十分ですが、ほかにもいろいろな伝説があったのです。

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篁は多情多感な博識の英才で自恃(じじ)するところ高く,直情径行,世俗に妥
協せぬ反骨の士であり,野狂の異名がある。

その奇才に因由する数々の話柄が《江談抄》《俊頼口伝》《今昔物語集》《宇
治拾遺物語》等に伝えられている。唐の白楽天と詩境を同じくする才幹である
ことを称揚する説話は篁を9世紀の漢風謳歌時代を代表する詩人として理想化する伝承だが,その他隠岐配流事件をめぐる和歌説話,篁を冥官とする蘇生説話などがある。なお異母妹との恋愛談や大臣の娘への求婚談から成る《篁物語》は虚構であり,その成立時期については,諸説があるが,平安中期から鎌倉初期までの間と推定される。             秋山虔 
(c) 1998 Hitachi Digital Heibonsha, All rights reserved
http://www.kuniomi.gr.jp/togen/iwai/takamura.html
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 この中で、「篁を冥官とする蘇生説話」とは、次のようなものです。

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篁は、毎晩冥府に通い、閻魔王庁で裁判を手伝っていた人物としても知られる。篁がまだ学生であったときに、罪を犯した。そのとき、藤原良相(よしみ)が篁のために弁護をした。歳月が流れ、篁は参議となり、良相も大臣になっていた。そのうち良相は重病となり、他界した。直ちに閻魔王の使いの者にからめ捕らえられて、王宮で罪を定められようとした。見ると、閻魔のかたわらに篁がいる。篁は閻魔に「この大臣は、正直で良い人だ。篁に免じて許してくれないか」と言う。閻魔は「篁がぜひにもと言うのならば、許してやろう」と答える。こうして良相は、生き返った。ある日、良相が内裏に行くと、篁がいた。
あのおりの閻魔王庁でのことを尋ねた。篁は「先年、私のために弁護をしてく
れたお礼をしただけ。決して人に話しなさるな」と言う。話を聞いて、良相は
ますます篁を恐れながら、「篁は普通の人間ではない。閻魔王庁の臣であった」と知った。このことは自然と世間に聞こえ、人々は、「篁は閻魔王宮の臣として冥途に通っている人だ」と恐れたという(「今昔物語集」)。 (中略)
京都の六波羅蜜寺近くの六道珍皇寺境内の閻魔堂には、閻魔大王と篁の木像が並んでいる。寺の裏には篁が冥界へ通っていたという井戸がある。篁は、この井戸から毎晩閻魔の庁へ出かけ、裁判を手伝っていたのである。そして、嵯峨の清涼寺横の薬師寺境内の井戸(生の六道)から、この世に戻って来たという。
http://www.pandaemonium.net/menu/devil/ononotak.html
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 つまり昼間は朝廷に仕え、夜は閻魔庁に仕えていたという伝説です。忙しい人だったんですね。今なら公務員は「兼業」の届け出をしないといけません。
 そしてこの「冥官伝説」が、小野道風をしのぐ件数の関連ホームページの源となっていたのです。
 「陰陽師」安倍清明が、マンガやら小説、映画、テレビでブームになった影響だと推測しますが、安倍清明と同じく、時代オカルトもののヒーローあるいは脇役として有名になっているようです。少女マンガにも出ているのでしょうか、「小野篁サマ秘密の花園」というホームページまであって、これには驚きました。

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2007年11月 1日 (木)

白川静

 懸案の「巳己已巳」の謎について、大学の同窓生で、大学の先生をしている友人から次のようなメールをもらいました。ありがとうございます。

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手元にある白川静著の『字通』をひも解いてみますと、イと読ませるのは、中で離れるやつで、字訓として、「はなはだ、やむ、すでに」とあり、コとキと読ませるやつは、みな離れる字で、字訓は「おのれ、つちのと」です。そしてすべてくっつくやつが、シと読ませ、字訓は「やむ、ああ、み」となっています。これは象形では、蛇の形だそうです。ただし説文解字でも、中で離れるやつで、「やむなり」と読ませ、ついでにすべてくっつくやつで「すでに」とも読ませています。そして、中で離れるやつと、すべてくっつくやつとが、「古くは区別が明らかでない」と注釈されています。金文では区別されていないということです。日本で盛んに使われたのが、説文解字であれば、この本家本元にすでに混乱があるのですから、江戸期の漢学者の解釈に混乱が生じたのもやむをえないのかなとも思われました。
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 白川静の『字通』が手元にあるというのはさすが大学の先生ですね。わが家にあるのは藤堂明保の『学研漢和辞典』、定価4,400円、『字通』は2万円超。ケチな話はおいといて、少し解説をさせてもらいます。

 白川静について、インターネットに次のような紹介があります。

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 人物紹介
立命館大学名誉教授。明治43年、福井に生まれる。働きながら夜間の立命館大学専門部国漢科に通う。立命館中学教諭を経た後、立命館大学法文学部漢文学科に入学し、卒業後、同大予科教授となる。29~56年、立命館大学教授を務めた。漢字研究の第一人者として知られ、59年、50年に及ぶ研究成果を盛り込んだ漢字の字源辞典「字統」を刊行、続いて「字訓」を刊行、平成8年には13年半かけて漢和辞典「字通」を刊行、三部作完成させる。他の主著に「金文通釈」(56冊)、「説文新義」(全16巻)、「稿本詩経研究」(
全3巻)、「詩経―中国の古代歌謡」「漢字」などがある。
http://obserai.co.jp/top/works/seisaku/eichi/s.shirakawa.html
(※05/07/08現在、このページは見つかりません。)
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 立花隆は『ぼくが読んだ面白い本・ダメな本 そしてぼくの大量読書術・驚異の速読術』(文藝春秋、2001)にこう書いています。

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字を書く人、字を読む人なら、白川静の三部作(いずれも平凡社)、『字統』
(六六〇二円)『字訓』(六六〇二円)『字通』(二万一九〇五円)のうち、
少くも『字統』の一冊くらいは座右に置いてほしいと思う。漢字の学は、久し
く『説文解字』を最大の典拠とし、二千年近くにわたって、ほとんど進歩らし
い進歩がなかったが、二十世紀に入って、大量の古代甲骨文、金文の資料が出て、それをもとに漢字の歴史が書きかわりつつある。それを最も包括的にやりとげ、中国の学者も驚倒させたのが『字統』である。同書はどの一ページを開いても、驚くほど広くて深い知識がこめられており、碩学とはこのような人をいうためにある言葉かと讃嘆せざるをえない。(304頁)
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「字を書く人、字を読む人」必携という、べたぼめですね。
 そして、『説文解字』というのは、

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説文解字 せつもんかいじ
中国最古の字典。▽紀元100年ごろに,後漢の許慎(きょしん)がつくった
。漢字の成り立ちを「象形・指事・会意・形声」の4種に,漢字の使い方を「
転注・仮借」の2種に分けて説明する。この6種を六書という。
(学研学習事典データベース (C)Gakken 1999)
http://db.gakken.co.jp/jiten/sa/226940.htm
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 中国で最も古い漢字の字典ですから、以降の研究者はみなこれを基礎として漢字の研究をしてきたわけで、いわば最古の権威です
 ところが許慎の時代には、それ以前の甲骨文字とか青銅器や石碑に刻まれている金石文のことは知られていなかった。だから甲骨文字にまでさかのぼって漢字を研究した白川静によれば、最古の権威であった『説文解字』も、多々誤りがあるということになります。   メールをもらってから、わたしも図書館へ行って『字通』を見てみました。【已】、【己】、【巳】の三項目を読んだだけですが、【己】の字の解説には「〔設文〕十四下に……とするが、形義ともに無稽の説である。」【巳】の字の解説には「……〔設文〕の説は根拠がない。」とハッキリ書いてありました。無稽というのは荒唐無稽の無稽ですよね。すごいですね。

 わたしは、ちょっと著書を読んでみたことがありますが、とても歯が立ちませんでした。背景となる知識がないものですから、読み終えるのがやっとで、その後は、敬して遠ざけております。 

 それと気になるのは、ネットの中に、わたしの愛読する高島俊男が白川静を認めていないという記事があったことです。高島の先生だった藤堂明保(わたしの漢和辞典の著者)の影響であるということでしたが、このあたり、わたしにはまったくわかりません。

 話が長くなってしまいました。白川静によって「古くは巳・已の字の区別が明らかでなく」というのはわかりました。しかし、江戸時代の用例がどうだったのかは、わからないままです。まだまだ勉強しなければなりません。

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